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「東京少女」押し寄せる言葉と映像の波

間髪入れず押し寄せる言葉のラッシュ、コラージュのような記憶(映像)の断片、抜け出すことのできない思考の荒波、途切れることのない自問自答、元号が変わろうと変わるまいと、何一つ変わることのない自分自身。映し出される東京の街並みと“わたし”の全ては、何もかも他人事であるはずなのに、こんなにも心動かされてしまうのは何故だろう。こんなにも寄り添うことができるのは何故だろう。

心の中では誰もが饒舌で、時には悪意に満ち溢れ、多くを客観視できているつもりが不鮮明なことばかりで、独善的に物事を考えている。だけど、そんな姿は誰にも見られたくない。曝すことなどできやしない。であるにも関わらず、“わたし”の心は包み隠さず全てを曝す。心の奥底に隠しておきたいはずの弱さや脆さや身勝手さを想いのままにブチまける。それはまるでSNSの裏アカに吐き出す類いの言葉の羅列。仮面を付けているからこそ明かせる心の秘密。それら身に覚えのある鬱屈とした想いの数々を、自分の声と身体で吐露していく“わたし”の大胆さが、“あなた”の心を釘付けにして離さない。そして、同調した“わたし”の心を通して悟ることになる。何があろうと人生は続いていくし、どれだけ言葉を並べ立ててみても現実は変えられない。自分の内側ではなく外側にこそ、嫌悪し絶望もする他者との繋がりの中にこそ、多くの可能性が宿っているのだと。電光石火の如くほとばしる“わたし”の言葉が、強烈な一撃を“あなた”の心にブチかます。

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©橋本根大

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