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「くじらの湯」日常に潜む非日常

見方次第ではサクッと終わり、深く考えを巡らせることもなく「何となく」で片付けられてしまう作品になるかもしれない。だが、これほどまでに観る者の思考を刺激してくれる作品は希少である。たかが7分、されど7分。アニメーションであるからこそ、セリフが用いられていないからこそ踏み込むことのできる領域があることを強く感じさせてくれる一本。

誰もが一度は足を運んだことがあるであろう銭湯。大人になれば趣味の一つとしてカテゴライズされる類いのものであるが、初めて足を運んだ日のことをあなたは覚えているだろうか。そこでは「暗黙の了解」と言わんばかりのルールやシステムが確立され、何の疑問も抱くことなく、皆がその仕組みに従って動いている。日常では目にすることのない見ず知らずの他人の裸。あつ湯・ぬる湯・薬湯・電気・水など、アトラクションとも取れる抱負な浴槽。まるで囚人が閉じ込められている牢獄であり拷問のようにも思えるサウナ。子ども時代特有の視点を通して描かれる銭湯の有り様は、まるで非日常の不思議な世界。未知のものに出会うという体験の源泉を感じさせてくれる作品です。

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©2019 Kiyamamizuki / Tokyo University of the Arts

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