『海上48hours -悪夢のバカンス-』に触れ、“羽目を外すことの危険性”を学ぶべし

折田侑駿

©Vitality Jetski Limited 2021

「羽目を外す」という言葉が好きだ。ハ・メ・ヲ・ハ・ズ・ス──ああ、いい響きだ。物心がついた頃から母に「羽目を外すな」と散々言われてきたため、筆者にとってこの言葉はひじょうに馴染み深い。改めて辞書で引いてみると、そこには“調子に乗って度を越すこと”とある。一部の方にとっては、胸にジーンとくるものがあるだろう。そしてこの羽目を外した者がどうなるのかといえば、その先には往々にして大変マズい結果が待っている。これはホラー映画やパニック映画の定石でもあり、人目をはばからず好き勝手に振る舞った者たちの未来には、それ相応の悲惨な結果が待っているものなのである。

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映画『海上48hours -悪夢のバカンス-』は完全にこの系譜に連なる作品だ。ジャンルとしてはサバイバルスリラーで、5人組の大学生がビーチでバカ騒ぎをしたあげく、完全なる自分たちの過失で重大な事故に遭い、彼らはサメが生息する海を漂流することになる。ただ浮かんでいるだけの使い物にならぬ水上バイクにしがみつき海をサバイブするという特殊な設定があるものの、基本的に本作はこの手の映画の正しいスタイルを踏襲しているといえるだろう。

そう、物語の冒頭から若者たちはフルスロットルで羽目を外すのだ。夜はビーチでテキーラをあおって乱痴気騒ぎ。夜が明けても朝っぱらからビール片手に相変わらずのどんちゃん騒ぎ。果ては、盗んだ水上バイクで走り出し、事故まで起こす始末で救いようがない。そんな若者たちが遭難してしまうシマを仕切っているのが、獰猛なサメというわけである。彼らのあまりの軽薄ぶりに、サメを支持する人も多いことと思う。筆者は自分のことを棚に上げ、サメにエールを送ったくらいだ。

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とはいえ、これまで数え切れないほどに羽目を外してきた人間として、彼らに同情せずにいられないのも正直なところ。深酒によって九死に一生を得ることの連続で、愉しい時間の代償として身体のあちこちには傷が残っていたりもする。もちろんこれは英雄の証のように自慢できるものではなく、明らかな落伍者の印。これらを見るにつけ、過ぎし日を思い出しては反省し、更生の道を歩んでいこうと決意を新たにするのである。

「羽目を外す」ことを「若気の至り」と結びつける人が多いようだが、実情は違うようだ。飲み屋なんかに行けば筆者よりもうんと年上の人間が「生涯現役」といった調子で羽目を外しており、それがあまりに不愉快である場合、こちらが叱りつけることも少なくない。とくに、「コンプライアンス」という概念を持ち合わせていない諸先輩方には優しさと厳しさをもって教えてあげなければならないので大変だ。時代は令和である。羽目を外す人間というのはいくつになっても外すもののようで、アルコールはそれを助長させるらしい。

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さて、コロナ禍に入って三度目の夏。今年のゴールデンウィークは特別な規制もなく、つかの間の自由を謳歌した人も多かったようだ。夏本番に向けて各地のお祭りも少しずつ復活し、飲み屋の大半が通常営業。これからビアガーデンやバーベキューが私たちを待っており、海へ山へと繰り出す人も多いはず。その前に、ここで一つご提案。釈迦に説法かもしれないが、まず『海上48hours』に触れてみて、“羽目を外すことの危険性”をしっかりと学んだうえで夏を堪能されてはいかがだろうか。そうすれば若者たちの痴態を反面教師にして、節度あるスペシャルな時間を過ごせること請け合いだ。まかり間違っても、あなたが訪れたシマを仕切っているヌシを怒らせたりすることがないように。

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『海上48hours ―悪夢のバカンス―』
監督 / ジェームズ・ナン
出演 / ホリー・アール、ジャック・トゥルーマン、キャサリン・ハネイ、マラキ・プラー=ラッチマン、トーマス・フリン
公開 / 7月22日(金)より新宿バルト9 他
©Vitality Jetski Limited 2021

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折田侑駿 文筆家

“名画のあとには、うまい酒を”がモットー。好きな監督は増村保造、好きなビールの銘柄はサッポロ(とくに赤星)。

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