圧倒的熱量で描く殺し屋たちの生き様。この冬必見の韓国ノワール『ただ悪より救いたまえ』

ミヤザキタケル

©2020 CJ ENM CORPORATION, HIVE MEDIA CORP. ALL RIGHTS RESERVED

ナ・ホンジンの『チェイサー』『哀しき獣』など、名立たる作品の脚本に携わってきたホン・ウォンチャン2作目となる監督作。数々の作品で主演を務めてきた韓国を代表する名俳優ファン・ジョンミンと、主演を務めたドラマ『イカゲーム』のヒットが記憶に新しいイ・ジョンジェが、『新しき世界』以来7年振りとなる共演を果たした韓国ノワール・アクション。

現役引退を決意し最後の依頼をこなした直後、元恋人の死と行方不明の娘の存在を知った殺し屋・インナム。インナムに兄を殺されたことで復讐に駆られる凶暴な殺し屋・レイ。韓国・日本・タイを舞台に、それぞれに目的を持った二人の殺し屋の壮絶な戦いが繰り広げられる。

裏社会・ヤクザ・殺し屋といった、映画において圧倒的な魅力を放つ世界観。『パラサイト 半地下の家族』の撮影監督を務めたホン・ギョンピョによるカメラワークが光る、手に汗握るド迫力アクション。殺し屋たちのプロフェッショナル度合いや狂気性を瞬時に感じさせてくれる情け容赦ない暴力描写の数々。その設定・映像・バイオレンスさなど、どれをとっても一級品である本作だが、中でも群を抜いていたのは、映し出されていく人間ドラマ。

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殺し屋や殺人狂の道を歩む人間の気持ちを理解することは、僕たち一般人には難しいものだが、自分にとって大切な人が理不尽な目に遭った際に生じる怒りや憤りに関しては、十分に理解が及ぶはず。冒頭にて日本のヤクザたちをそつなく殺し、引退してパナマで新生活を送るはずだったインナム。だが、かつて愛した女性が無残に殺され、自分に娘がいたこと、その娘が命の危機に晒されていることを知り一路バンコクへと向かう。

一方、その冷酷で凶悪な殺害方法から裏社会で恐れられているものの、絶縁状態であった兄の死を知りインナムへの復讐へとひた走るレイ。そんな彼らを突き動かすもの、それは家族の存在。彼らにとっての大切な人が危害を加えられたことから生じる、人として当たり前の感情。だからこそ、目にする映像は恐ろしかったり物騒だったりと非現実的なものばかりだが、彼らの心には難なく歩み寄ることができてしまう。そして、作品世界へ深く没入することが可能になる。

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また、娘を救い出すべく奔走するインナムと、インナムを殺すべく追走するレイの戦い振りを通して、もう一つの要素が垣間見えてくることだろう。それは、断ち切ることが非常に困難な“報復の連鎖”。一度そこに足を踏み入れたら最後、ちょっとやそっとのことでは抜け出せない。

殺し屋としての道を歩む彼らにとっては、背負って然るべきものなのかもしれないが、この現実社会を生きる僕たちだって、何がきっかけで背負うことになるか分からない。やったらやり返されるのが世の常で、やり返されたのなら再びやり返したくなってしまうのが人の常。些細なことであれば忘れ去ることもできるが、暴力・殺人・戦争などが絡む領域へ入っていけば、引き返すことは厳しくなる。そうして負の連鎖が続いていく。どちらか一方が我慢したり泣き寝入りするか、相手やその関係者を根絶やしにすることでしか、報復の連鎖を断ち切る術はない。

しかし、どちらも容易に選べる道ではない。それ故に、互いに譲れないものを心に宿した二人の男は、激突することを避けられない。彼らの間で生じた連鎖がどのような結末を迎えることになるのか。その行末を見守ることもまた、本作の見どころの一つである。

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日本映画には日本映画の良さがあるが、日本映画では決して真似することのできないギラついたものを感じさせてくれる韓国映画。その最たるものを宿した本作は、あなたの心を間違いなくアツくさせることだろう。公開は12/24(金)、クリスマスイブ。圧倒的熱量によって冷えた身体と心をあたためてくれる本作で、ぜひクリスマスの夜を過ごしていただきたい。

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『ただ悪より救いたまえ』
監督・脚本 / ホン・ウォンチャン
出演 / ファン・ジョンミン、イ・ジェンジェ
公開 / 12月24日(金)よりシネマート新宿 他
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※ミヤザキタケルさんの今回のコラムを含む、ミニシアター限定のフリーマガジン「DOKUSOマガジン」12月号についてはこちら。
⇒12月号の表紙は『偶然の想像』の濱口竜介監督!「DOKUSOマガジン vol.3」配布劇場とWEB版のお知らせ

ミヤザキタケル 映画アドバイザー

WOWOW、sweetでの連載のほか、各種メディアで映画を紹介。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』がバイブル。

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