濱口竜介監督インタビュー!『偶然と想像』偶然を軽んじている人にこそ観てほしい

DOKUSOマガジン編集部

偶然により世界が広がるのは登場人物だけでなく、作り手としての私自身にも起きていることなのです。

『ドライブ・マイ・カー』でカンヌ国際映画祭・脚本賞に輝いた濱口竜介監督の待望の新作『偶然と想像』がいよいよ公開となる。ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した本作を「偶然を軽んじている人にこそ観てほしい」と語る濱口監督。制作の裏話や見どころについてお聞きした。

©2021 NEOPA / fictive

『偶然と想像』あらすじ
【第一話】魔法(よりもっと不確か)
親友同士の他愛のない恋バナ。話を終えたあとにタクシーで向かった先は…

【第二話】扉は開けたままで
大学教授に教えを乞う生徒。色仕掛けでスキャンダルを起こさせようとするが…

【第三話】もう一度
20年ぶりに再会した女友達。興奮し話し込む2人に想像し得なかった変化が…

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―「偶然」をテーマにし、濱口監督ご自身が「チャレンジだった」と語る本作『偶然と想像』ですが、偶然をさも必然であるかのような、手ざわりを出すために一番気をつけたことは何でしょうか?

「偶然と言えども“ありえる”と思えることから展開するようにしています。親友からの恋愛相談だったり、数年ぶりに友人とバッタリ再会するなど。自分の身に覚えのある小さなことから始まり、観客のこうなってほしいという願望にも乗っかりつつ、段々と普段の日常からは想像できない深刻な事態へと発展させることかと思います」

―キャストの皆さんが素敵でしたが、特に第二話「扉は開けたままで」での渋川清彦さんの大学教授役が印象的でした。監督ご自身も時間と勇気が必要だったとお話されていましたが、渋川さんキャスティングの理由などをお聞きしたいです。

「大学教授で作家の役を演じていただきました。これまでの渋川さんのイメージとも普段のキャラクターとも全く違います。もちろん核の部分でこの役を演じるために必要なものを持っておられることは間違いありません。役作りには時間がかかりますし、時間をかけたから必ずたどり着けるとも限りませんでした。言うならば、もっと大学教授らしく見える方はたくさんいます。ですが、最終的に渋川さんが見せてくれたものは本当に素晴らしものでした」

―渋川さんは何かおっしゃっていましたか?

「“濱ちゃん、楽しかったよ!”と言いながら帰っていきました。笑」

―渋川さんの役作りのお話とつながりますが、本作の基本コンセプトには“時間をかけること”とあります。スケジュール、コストなど進行において苦労されたことはありましたでしょうか?

「実はあまり苦労はありませんでした。キャスティングの際も、時間をかけてつくることを望んでいる方々にオファーできたことが大きいです。キャストもスタッフも、コンセプトを理解してくれる方で集まることができましたから。時間をかけて、ゆるくお話をしながら本読みをし、自然とコミュニケーションが生まれる。直接みなさんに聞いたことはありませんが、楽しんでくれたのではないでしょうか」

―強いて言うならば、第一話は偶然、第二話が想像、そして第三話でそれらが合わさり、偶然と想像として着地している印象を受けました。本作のテーマである偶然と切り離すことができない“想像”ですが、監督が誰かや何かに対して想像するのはどんなときでしょうか?

「やはり“怖い”ことを想像しますね。こうなったら、ああなったらどうしようと、恐れていることを考えてしまいます。今度、イザベル・ユペールさんと対談の機会いただいたのですが、一体何をどう聞いたら…とあの手この手を想像したりしますよね」

―しかし本作で言えば、その想像と、当日の偶然がまた新たなものを生み出すということですよね。対談の話題が出ましたが、本作は三話とも対談のような二人の会話をメインに物語が進みますが、そこにはどんな狙いがあったのでしょうか?

「メインの会話だけでは何が起きているのか分からないのですが、物語が進むにつれて会話の裏にあるものが見えてくる。ものすごく狭い範囲の話が軸となるんですが、そこからむしろ世界の広がりを感じさせたい。そのためには別のもうひとつの軸、つまりは社会も見せておく必要があります。なので、全体の構造としてまず社会を見せて、メインの二人の対話で更にそれを想像させるようにしました」

―二つの軸だけで、ものすごく広い世界を見せていただきました。今回のチャレンジで得られたことはなんでしょうか?

「偶然というものは、物語の中に上手く収まってはくれないものです。今回、偶然をテーマにチャレンジして改めて発見した感覚がありました。偶然が入ることで風通しが良くなり、自分が想像した以上に世界が開けてくる。短編ですが、これまで私が物語で表現できなかったことだと感じています。偶然によって登場人物の世界が広がっていく。これは作り手としての私自身にも起きているのだと」

―私は本作を自分は思慮深いと思っている方にこそ観てほしい作品だと思っています。想像できていると思っていることが、如何にできていないかを教えていただきました。監督はどのような方に観ていただきたいでしょうか?

「偶然とは些細なものであって、コントロールできると思っている方に観ていただきたいですね。もしかすると、そういう人からすると本作の登場人物は愚かに見えるかもしれません。ですが、それは常に自分の盲点、つまり想像を超えたところから襲ってきて人生を大きく揺り動かすものです。偶然を排除するように生きれば、人生や生活は安定するかもしれない。ですが、偶然を受け入れたときに初めて本当に自分が望んでいる人生に近づく可能性がある。それを感じる機会にしてもらえたらありがたいです」

©2021 NEOPA / fictive

『偶然と想像』
配給:Incline
12月17日(金)よりBunkamura ル・シネマほか全国公開
©2021 NEOPA / Fictive
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撮影 / MAKOTO TSURUTA
文 / 永井勇成

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