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誰もが向き合うべき“今”を描いた必見のドキュメンタリー『リトル・ガール』

ミヤザキタケル

©AGAT FILMS & CIE – ARTE France – Final Cut For real – 2020

男の子の身体で生まれてきた7歳の少女・サシャ。そんな彼女を理解し献身的に支える母親と家族、理解を示せぬ学校や社会の姿を通し、幼少期におけるトランス・アイデンティティの問題に迫ったドキュメンタリー作品。監督は、世界中の名立たる映画祭において受賞経験を持ち、ジェンダーやセクシュアリティに関する劇映画やドキュメンタリーを制作し続けているセバスチャン・リフシッツ。

©AGAT FILMS & CIE – ARTE France – Final Cut For real – 2020

「LGBTQ」「多様性」「ジェンダーレス」など、近年それらの言葉や話題を見聞きしない日はないと思うのだが、“知っている”だけで、“理解できている”人はほんの一握りだけなのではないだろうか。この手の題材を扱う作品と向き合う時、正直ヒヤヒヤとしている自分がいる。ただ作品を目にするだけならばともかく、こうして映画を届ける立場にある者として、しっかりと理解した上で届けることができるのかと。そのつもりがなくても、無自覚で不用意な言動によって誰かを傷付けたり、SNSなどで炎上してしまうのではないかと。それならば、適任者に託すべきなのではないかと。

しかし、それらは全て言い訳でしかない。正確に届けられないのなら、誰かを傷付けてしまうリスクが生じるのなら、理解する努力を怠らず、しっかりと学べば良いだけのこと。専門的に扱っている方が紹介するに越したことはないが、マジョリティでストレートの男性である自分だからこそ感じられることや届けられることもきっとある。ここで本作を紹介することで、誰かにとって何かしらのキッカケにだってなり得るかもしれない。

©AGAT FILMS & CIE – ARTE France – Final Cut For real – 2020

さながら劇映画を思わせるポスターやメインビジュアルに加え、本編における演出やカメラワーク、音楽使いなども相まって、何も知らずに見たのならフィクションと錯覚してもおかしくない本作。他にも注目ポイントは様々あるのだが、本作を強く紹介したいと思ったのには理由がある。それは、本作がサシャを主軸に置いたドキュメンタリーであるのと同時に、躊躇い戸惑い苦悩する母親のドキュメンタリーでもあったからだ。

当事者の視点だけではなく、シスジェンダー女性である母親の視点が色濃く映し出されていることによって、当事者でない観客にとっての拠り所が芽生えていく。そして、もしも自分の子どもがトランスジェンダーであった場合のことを考えずにはいられない。当事者の気持ちを100%理解することは難しいかもしれないが、極めて近しい距離にいる人たちの気持ちであれば、たとえ当事者でなくとも汲み取れるものが多いにある。

©AGAT FILMS & CIE – ARTE France – Final Cut For real – 2020

無知であることを決して罪であるとは言わないが、無知であることを自覚しつつも行動を起こさずにいることは、もはや罪と同義なのだと思う。僅かでも自覚があるのなら、どうかこの作品に巡り合って頂きたい。多くを高望みしているわけでもなく、只ありのままに生きていくことを願う少女が直面する現実が、彼女が見せるとびきりの笑顔や胸締め付けられる涙が、娘の将来を案じる母親や家族との絆が、あなたの心を大いに揺さぶってくれる。同時に、今この社会に蔓延る問題と向き合うための第一歩を踏み出させてくれるに違いない。

サシャが成長して大人になった際、本作が彼女にとって枷や重荷にならないことを願うばかりだが、どうなるかは社会次第。それはつまり、今を生きる僕たちがどういった社会を築いていくのかで決まっていく。一人ひとりが真摯に向き合い、心からの理解を示していかなければ、辿る末路は二つに一つ。本作をトリガーとし、一人でも多くの方が己自身と、この社会と向き合っていけますように。

©AGAT FILMS & CIE – ARTE France – Final Cut For real – 2020

『リトル・ガール』
監督 / セバスチャン・リフシッツ
公開 / 11月19日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷 他
©AGAT FILMS & CIE – ARTE France – Final Cut For real – 2020

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