『ばるぼら』『脳天パラダイス』『私をくいとめて』ミヤザキタケルのミニシアターで会いましょう

ミヤザキタケル

日本では年間1200本以上もの映画が公開されています(2019年の実績より)が、その全ての作品を見ることはどれほどの映画好きでも金銭的かつ時間的にもまず不可能です。

本コーナーでは映画アドバイザー・ミヤザキタケルが、DOKUSO映画館が掲げる「隠れた名作を、隠れたままにしない」のコンセプトのもと、海外の小規模作品から、日本のインディーズ映画に至るまで、多種多様なジャンルから“ミニシアター”の公開作品に的を絞り、厳選した新作映画を紹介します。

お金と時間を使う価値のある面白い作品、人生をより豊かにしてくれる作品、もう一度ミニシアターに足を運びたいと思える作品に出会えますように。

『ばるぼら』11/20より公開中

©2019『ばるぼら』製作委員会

手塚治虫が様々なタブーに挑戦した大人向け漫画「ばるぼら」を、稲垣吾郎×二階堂ふみのW主演、日本・ドイツ・イギリスの合作で実写映画化。海外映画祭での受賞経験を持つ手塚治虫の息子・手塚眞が監督を務め、撮影監督にはウォン・カーウェイ作品でお馴染みのクリストファー・ドイルと、ワールドワイドな一本に仕上がっている。

富も名声も手にしたものの、芸術家としての苦悩や異常性欲を抱える小説家・美倉洋介(稲垣吾郎)が、新宿駅の片隅でホームレスの如く酔っ払っていた不思議な少女・ばるぼら(二階堂ふみ)を拾って帰ったことを機に、狂気の世界へと足を踏み入れていく様を描いた本作。

その独特な世界観や映像表現故に、人によっては置いてきぼりを食らってしまいかねない。ハマらない人にはとことんハマらない可能性が正直あると思う。だが、物語冒頭において映し出される哲学者・ニーチェの言葉を、その真意や物語と重なり合っていく部分をしっかりと咀嚼することができたのなら、作品の面白さは何倍にも跳ね上がるに違いない。

その言葉とは、「愛の中には狂気があり、狂気の中には理性がある」というもの。今この言葉だけを伝えられてもピンとこないかもしれないが、「愛」「狂気」「理性」、それらの言葉が道標となり、奇妙で幻想的で退廃的な世界観を、狂気の果てにあるものに想いを馳せる男の葛藤を理解することができるはず。

もう少し噛み砕いて言うならば、愛を得るために狂気に染まるも、理性によって引き戻される。難解に思える出来事や美倉の行動も、その理に沿って追っていけば、何もかも辻褄が合うはず。

ことクリエイティブなことに携わる人にとっては、身に覚えのある「狂気」との対峙の仕方を目の当たりにすることができるだろう。ニーチェの言葉をどのように噛み締めるか次第で、感じ方が大いに変わる作品。あなたの心には、どのように響くだろうか。

『ばるぼら』
2020年11月20日(金)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開!
配給:イオンエンターテイメント
© 2019『ばるぼら』製作委員会

『脳天パラダイス』11/20より公開中

©2020 Continental Circus Pictures

ベルリン国際映画祭をはじめとした海外映画祭での受賞や、キネマ旬報ベストテンランクインなど、国内外で高い評価を得ている山本政志監督5年ぶりとなる最新作。

『観たら、キマる』というキャッチコピーの通り、奇想天外でカオスな展開まみれの異色作でありながらも、メインキャストには南果歩、いとうせいこう、柄本明とそうそうたる俳優陣が名を連ねている。また、脇を固めるキャストも村上淳、古田新太などの布陣となっており、俳優陣の山本監督に対する信頼や、作品の骨太さがヒシヒシと伝わってくることだろう。

物語の始まりはこうだ。破産して豪邸を手放すことになった家族が引っ越し準備をしている最中、思い出作りにと一家の娘が「今日パーティしましょう。誰でも来てください」とTwitterでつぶやく。それをキッカケに、一癖も二癖もある人物たちが豪邸に集まり、次第にカオスな状況へと陥っていく。

そのカオスっぷりがとにかくぶっ飛んでいるのである。普通では絶対にありえないことや、物語が破綻しかねないことばかりが起きていくのだが、この作品のすごいところは、それでも成立してしまう点。その上、面白くて大爆笑できてしまう点に尽きる。

一見、勢い任せの作品に感じられるかもしれないが、何の考えもなしにこの世界観を成立させるのは絶対に不可能。綿密に練られた脚本があり、唯一無二の監督のセンスがあり、それを体現するキャストやスタッフの努力によって生み出されたものであることだけは間違いない。

見て感じたことを言語化するのがここまで難しい作品も珍しいのだが、要約すると、やはり『観たら、キマる』作品なのである。こんな映画体験は中々できるものではない。ネタバレは控えるが、本作が何故面白いのかを事細かに言語化したものを、劇場で販売されているパンフレットの中に書かせていただいた。ぜひ手に取ってみてほしい。(宣伝です。)

『脳天パラダイス』
2020年11月20日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開!
配給:TOCANA
©2020 Continental Circus Pictures

『私をくいとめて』12/18公開

©2020『私をくいとめて』製作委員会

『勝手にふるえてろ』の原作・綿矢りさ×監督・大九明子の最強タッグが再び…。おひとりさまライフを過ごす31歳独身のみつ子(のん)と、彼女の脳内から生まれた頼れる相談役A。そんな2人でひとつ(1人でふたつ?)な女性のちょっぴりファンタジー混じりな恋と人生の物語。

みつ子がうっかり恋する年下男子を林遣都が演じるほか、臼田あさ美、片桐はいり、橋本愛など、魅力的なキャストが集結。わかりみ深すぎな30代独身のリアルな日常や葛藤が詰まりに詰まった作品となっている。

まだ30代を迎えていない人や、一人で過ごす時間より誰かと過ごす時間の方が長い人にはピンと来ない部分もあるかもしれないが、現役で30代おひとりさまを過ごしている人ならば、まず間違いなく引き込まれる。心当たりが多すぎて、胸がギューッと締め付けられる場面が度々訪れる。34歳独身、長らく恋人がいない現役おひとりさまの僕自身が生き証人だ。

30過ぎて結婚していないことや、恋人がいないことは決して悪いことではないのだが、おひとりさまでいるのにも何かしらの理由が必ずある。30も過ぎればそれなりに人生経験も豊富で、自分が傷付かずに済むための術も把握できている。上手く自分を騙し、誤魔化し、目をつむり、嫌なことから逃げるのは造作もない。

ただ、その器用さがチャンスを逃してしまうことも時にはある。そんな30代の絶妙なリアルさが、みつ子の一挙手一投足、物語の隅々に宿っている。そういった状況から抜け出そうと孤軍奮闘していく彼女の姿が、見る者の心に勇気を与えてくれるのである。

人と関わらなければ傷付くリスクは減るが、一人だけでは得られる喜びにも限界がある。逆に人と関われば傷付くリスクは圧倒的に増すけれど、得られる喜びに限界はない。人生において何を優先して生きるかは人それぞれであり、多くを誤魔化しながら生きていくこともできるけれど、誰だって本心では幸せになりたいに決まっている。

時として、一人の時間が必要不可欠な瞬間もある。にも関わらず、僕たちは他者との繋がりも欲してしまう。その上で丁度良い塩梅と、心地良い関係性を模索するしかないのだ。無論、一人ではなく、二人で。それは自分の中にいるもう一人の自分ではなく、目の前にいる相手と二人で見つけ出していくもの。本作を見たことで、他者としっかり関わりたいと思えた自分が確かにいる。全国のおひとりさまにも、この想いと感動がどうか届きますように。

『私をくいとめて』
2020年12月18日(金)よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開!
配給:日活
©2020『私をくいとめて』製作委員会

気になる作品はありましたでしょうか。あなたにとっての大切な一本に、劇場へ足を運ぶための一本に、より映画が大好きになる一本に巡り会えることを祈っています。それでは、ミニシアターでお会いしましょう。

©2019『ばるぼら』製作委員会©2020 Continental Circus Pictures©2020『私をくいとめて』製作委員会

ミヤザキタケル 映画アドバイザー

WOWOW、sweetでの連載のほか、各種メディアで映画を紹介。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』がバイブル。

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