スタッフKの「キネマ・ダイアリー」vol.6 『春の夢 詩人とは夢をみる人々のこと』 | DOKUSO映画館

vol.6 春の夢 詩人とは夢をみる人々のこと

「春の夜の 夢の浮橋 とだえして 嶺にわかるる 横雲の空」
(藤原定家)

浮橋のように儚い春の夜の夢から目覚め、嶺から雲がゆっくり横に離れていく明け方の空の様子を歌にしたものです。

チャン・リュル監督『春の夢』はまさにこの歌のような映画。横に広がってゆらゆら歩く姿は、春の陽気が広がる池の浮橋が風で揺れているよう。子供じみた会話は、ふわふわと浮かぶ雲のよう。詩のような、短歌のような映画なのです。その他愛のない日常を淡々と描いているだけなのですが、面白いのです。

『春の夢』で絶妙な間合いを作り出しているのは世界的に評価されている映画人たちです。本作には近年活躍している映画監督が俳優として出演しています。

中途半端なチンピラだが優しい一面もあり、街のみんなから好かれているイクチュン。演じるのは『息もできない』のヤン・イクチュン監督。最近では日本でも『あゝ、荒野』で俳優として出演。

北にいた頃はものすごい美人の彼女がいたと言うジョンボム。目が憂鬱だから、という理由で一年間働いた工場の社長から給料を半年分しかもらえず静かに抗議を続けています。そんな穏やかな青年を演じるのは『ムサン日記 白い犬』の監督・脚本・主演を務めたパク・ジョンボム監督。世界各国の映画賞で受賞し注目されています。

実家がお金持ちのジョンビン。たまに泡を吹いて倒れたり、挙動が変だったり、バカだけどなぜか憎めないやつです。演じるのは『悪いやつら』や『群盗』で有名なユン・ジョンビン監督。

そして注目の女優たちも出演しています

中学生のとき父を探しに中国から韓国に来たイェリ。しかし再会してすぐに父は全身麻痺になり介護に追われています。イクチュン、ジョンボム、ジョンビン三人の溜まり場である酒場の店主で、三人にとっての女神。毎日彼らからの愛情を一身に受けています。演じるのは『同窓生』や『海にかかる霧』などに出演し、韓国だけでなく日本でも人気のあるハン・イェリ。

サッカーボールを蹴って登場し、バイクを乗り回す男勝りなジュヨン。演じるのは本作で映画初出演のイ・ジュヨン。最近では、第14回大阪アジアン映画祭コンペティション部門のグランプリに輝いた『なまず』で主演を務めています。

さらに豪華すぎるカメオ出演も話題に。気になる方は映画をみながら探してみてください。

際立つ出演者ばかりですが、誰一人として悪目立ちすることなく、映画の世界に溶け込んでいます。
出演者の演技だけでなく、不思議な空気を加速させるような演出や仕掛けもたくさん。本作独特のふわふわとした雰囲気は、多くのプロフェッショナルが協力してつくりだしたものなのでした。

明け方に目が覚めて空を見ると、雲たちはゆっくり遠く離れていきます。未練のない余韻に包まれた特別な眺めのような、美しい映画でした。

『春の夢』を見る

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