わずか40万円で作られた探偵映画『リベンジ!』が最高すぎたので監督に裏話を聞いてきた
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『リベンジ!』河谷忍監督 わずか40万円で作られた探偵映画『リベンジ!』が最高すぎたので監督に裏話を聞いてきた

河谷忍さん
ゆうせい

主演の中村瞳太さん(右)とマジシャン役でも出演している河谷忍監督(左)

ゆうせい

こんにちは。DOKUSO映画館のゆうせいです。

突然ですが、映画、見てますか?

DOKUSO映画館では珠玉のインディーズ映画を配信していますが、もう『リベンジ!』はご覧になりました?

ハードボイルドながらどこか飄々とした探偵が活躍する物語で、僕は開始1分でこの世界観に没入し、探偵の所作に魅了されました。携帯電話を回収するだけのはずが、気がつけば麻薬と殺人事件に巻き込まれる展開が見事な一本です。

こんなに最高の探偵バディムービーがインディーズ映画にあるなんて、マジで出会えて良かった〜と思っていたら、なんと制作費が40万円…!?そんな低予算で映画がつくれるなんて…。

そこで、本作の制作裏話と秘訣を監督の河谷忍さんにお聞きしました。これからインディーズ映画をつくる方に向けたアドバイスもお聞きできたので、ぜひ最後までお楽しみください。

今回ウラ話をお聞きした監督は 河谷 忍さん

1996年4月24日京都府出身。AB型。学生時代からマジックや舞台演出などのパフォーマンス、創作活動を行い、2018年に監督、脚本、出演を兼任した初監督映画作品『リベンジ!』が第30回東京学生映画祭、第22回京都国際学生映画祭のコンペティション部門に選出され、国内外で高い評価を受ける。

現在は劇場でのライブプロデューサーや放送、構成作家。脚本家、デザイナー、映像ディレクターなど、多岐に渡る活動を続けている。

主な監督作品
  • 『リベンジ!』2018年
受賞歴
  • 第30回東京学生映画祭 長編コンペティション部門入選
  • 第22回京都国際学生映画祭 コンペティション部門入選

ぜ40万円で最高の探偵映画がつくれたのか

ゆうせい

河谷監督、本日はよろしくお願いします。早速ですが、本作は制作費が40万円だとお聞きしました。大変なご苦労があったと思われますが、きっかけや裏話などを教えていただけますか?

河谷さん

よろしくお願いします。はい、本作は、京都芸術大学(旧:京都造形芸術大学)の卒業制作で作った作品です。卒業制作には大学から予算が出ます。と言っても、こちらで立て替えて、後で精算する感じですが…。その年は全体で120万円程度でした。この金額を卒業制作の企画が通った組で分け合うのですが、とある一組が遠方でロケをするからと、確か60万円ぐらいが支給されることに決まり…。私たちに分配された金額が40万円だったというわけです。

なので、望んで低予算で作ったわけではなく、大人の事情でそうなったと言った方が正しいかもしれません。全然関係ないんですが、『おとなの事情』と言うイタリアのコメディ映画がめちゃくちゃ面白いので、良かったらご覧になってみて下さい。

ゆうせい

なんと、そのような事情が…。では当初の企画からカットや縮小が生じたのではないですか?

河谷さん

それはそれは、いろいろなところに影響がでました。(笑)

例えば、本来であれば廃墟で撮影するはずのラストシーンが、廃墟となるビルを借りるお金がないのはもちろん、そこまで出向く車輌代も支払えず、急遽京都市内の森でナイター撮影になりました。

ゆうせい

廃墟ビルから森…。屋内から屋外だと撮影方法も大きく違いますし、天気の心配も必要になりますね。

河谷さん

また、タイトルの現れる、初めて3人が同じ場所ですれ違うシーンは、オープンカフェでもっとスタイリッシュな演出のはずでしたが、これまた京都市内の誰でも使っていい大きな公園で撮影しています。当日に幼稚園の運動会とバッティングしている事に気付き、その時はもう笑うしかなかったですね。終わってみれば、あれはあれで良かったと思えるのですが、本当はもっとやりたい演出や、こだわりたいポイントがあったのは事実です。

ゆうせい

幼稚園の運動会…音声さんの困った顔が想像できます。予算によって多くのこだわりポイントが犠牲になってしまったのですね。それでも探偵事務所はまるで本物のようでしたが?

河谷さん

実は、その探偵事務所のシーンは大学の資料倉庫を使って撮っています。撮影場所を探していて偶然見つけたのですが、映画の脚本や資料が並べられ、ハンドルのついた本棚がある面白い部屋なんです。

ゆうせい

刑事ドラマなどでたまに見るあの本棚ですね。

河谷さん

あの部屋を使うために、管理している美術担当の教員に相談したとき「いいところに目をつけたね」と言われたのが印象に残っています。

とは言え、いくら面白い部屋でも探偵事務所には程遠く、美術と相談して細かい部分を作り込んできました。雑誌やアガサ・クリスティの探偵小説を大量に置いたり、ポスターやゴミも計算して散らかしました。中でも特にこだわったのは「遊び心」で、ただの探偵事務所という空間にならないようにしています。

おそらく探偵はお金もなく、あの事務所で生活しているはず。なのでちょっとしたところに探偵の暮らしが見えるようにしています。さらに生活感と、空気の流れを演出するために生きている亀を置いています。あの亀は大学の映画学科で飼っているロッキーという亀なのですが、探偵の唯一の友だち感を醸し出すために出演してもらいました。あまりに元気すぎて、撮影時に暴れ回って録音部がちょっとキレてましたね。

ゆうせい

ここでも音声さんが…。たしかに亀は存在感を放っていましたし、探偵が夜中に話しかけていそうでした(笑)。探偵事務所の雰囲気をつくるにあたり、参考にされた作品などはあったのでしょうか?

河谷さん

直接参考にしたものはないですが、イメージとして美術と相談したのは『まほろ駅前多田便利軒』の、二人が生活しているような部屋です。ただし、他の作品を参考にしすぎると、モノマネの域を出られなかったり、参考にしましたで終わってしまいます。

なので、参考にしながらも自分たちのオリジナリティを盛り込むことを意識しました。劇中にアルファベットの置物が出てきたり、見慣れないアイテムがフレームインしているのですが、実は後半にフリになっていたりもします。その辺も含めてもう一度ご覧になってみてください。

ゆうせい

悔しいですが、アルファベットの置物には気づけませんでした。あとでもう一回見てみます。他にも予算ゆえにロケ地の確保やキャスティングで大変だったことはありましたか?

河谷さん

あります。病院が大変でした。まず病院で撮影させてもらえるか。ここに不安というか、無理なのでは?という雰囲気がありました。でも、『リベンジ!』の撮影クルーの中に、お母さんが病院で働いてるという人がいまして。

娘の仲間が映画を撮ろうとしているので協力してくれませんか?と直接交渉してもらった結果、「学生を応援したいのでぜひどうぞ!」と言って頂き、撮影する事ができました。あのスタッフがいなかったら、病院での撮影はできていなかったですね…。

ゆうせい

素人ながらに病院での許可は難しいと想像できます。学生の熱意が伝わった嬉しいエピソードですね。

河谷さん

病院は運の要素もあるのですが、ロケ地だけでなくキャスティングにおいても、まずは一回ダメ元で聞いてみるのが大事だと思います。今回、キャスティングは基本的には学生で、年配の役などは大学の教員(プロの役者さん)にお願いしています。

それでも足りないところは、普段はエキストラをされている方にお芝居をお願いしました。「すみません、お金とかあんまり払えないんですけど…」と正直に。それでもやりたいと言ってもらえたら最高ですし、ダメなら別の方法を考える。だからこそ予算内におさめられたなと思っています。

線多数、見事な脚本が生まれた秘訣

ゆうせい

本作はいくつも伏線がありますが、脚本づくりで意識されたことはあるのでしょうか?

河谷さん

よく『カメラを止めるな!』を意識されていますか?と聞かれるのですが、不勉強ながら本作を完成させるまで見ていませんでした。実際に見てみたら、見せ方で似ているところもあって、なるほどと思いましたが、他の作品はあまり参考にしていません。

僕は脚本を書くときにポストイットの付箋を大量に使います。まずは付箋に「○○と会う」とか、「ここで○○する」などを書いて壁にどんどん貼っていきます。次第に部屋が真っ黄色になるのですが、気にしたら負けです。

河谷さん

それを一本の線、はじまりがあって終わりがここで、というように順番に貼っていきます。行動した結果、何が起きて、次は…みたいに一度時間どおりに並べるんです。それから、こことここを入れ替えたらもっと面白くなるとか、パズルをするような感じで組み合わせを入れ替えていきます。

なので、はじめから伏線を設定しようと思っていたわけではなく、純粋に後を先に、先を後にしていった結果で生まれた展開になっています。

ゆうせい

ありがとうございます!私が記事を書く際にもとても参考になります。本作の展開には無理やりな感じも違和感もなかったのですが、そんな秘密があったのですね。

河谷さん

ありがとうございます。よくある映画では、まず普通の時間軸があり、そこから過去の回想に戻って謎を解いて、また今の時間軸に戻ってくる流れが王道です。本作では、今の時間から過去の時間に戻り、そこからさらに過去の時間に戻っています。見ているときに違和感が出ないようにしているのですが、あえて挑戦したことなので、1回目の方はもちろん、もう一度見ていただく際に意識していただけると、もっと楽しめると思います。「映画は時間を操作できる」たしか大学の教員が、そんな事を言っていました。

ゆうせい

映画は時間を操作できる!めちゃくちゃ格好いい話なので、いつか僕が言っていたかのように使いたいと思います。少し話は変わりますが、探偵が持っている白いハンカチも伏線となっていましたが、これをキーアイテムにされたのは監督ご自身の経験が関係しているのでしょうか?

河谷さん

まったくそのとおりです!実は僕の経験といいますか習慣でして、ハンカチを肌身離さず絶対に持ち歩いています。大学に通っていたときも、仕事でも、絶対にハンカチを持って行きます。たまに忘れてしまい、鍵をかけて出かけたのに家にもどることもあります。なので、キリシマ探偵が急いでいても絶対に持っていきたいアイテムを作りたいと思い、あのハンカチを脚本に組み込んでいます。

本作を見るときの楽しみになればと思うのですが、実は裏設定であのハンカチは親の形見としています。なので、常に自分の近くに置いておきたい、ある意味でお守りに近いものなんですよ。

ンディーズ映画だからできること、やるべきこと

ゆうせい

DOKUSO映画館では「隠れた名作を、隠れたままにしない。」をコンセプトに多くのインディーズ映画を配信しています。そこでお聞きしたいのですが、監督が思うインディーズ映画の魅力とはなんでしょうか?

河谷さん

大手シネコンで上映されている映画は、僕たちが気がつかないうちに沼にはめられているというか、悪く言えば宣伝や広告で押し付けられているような。でもインディーズ映画は、自分から探っていく面白さがあります。

プッシュとプルの違いのような、受け取るだけなのか、自分から取りに行くのかで、面白さが大きく変わってくるはず。インディーズ映画や自主制作の作品は、自分から探さないとたどり着けないものが多く、このあたりが大きな魅力ではないかと。

自分とって最高の作品を見つけられたときの喜びは、シネコンで上映されているものより大きいですよね。

ゆうせい

まさに今回、私が『リベンジ!』に出会えた喜びのことですね。

河谷さん

また、これはちょっと失礼な言い方になってしまうのですが、「インディーズ映画のおもしろいところ」は、「おもしろくないところ」だと思っています。作り手がおもしろくない、という話ではなくて、予算が潤沢な大手作品と比べたらそれは劣っていて当然ですよと…。

ただし、劣っているけれど、それを気にもせずに、見せたい物語や表現がある。そこがインディーズ映画の醍醐味です。キャストや美術にお金をかけてこだわるのも良いですが、お金をかけられない分の熱意がある。そこが自主制作の本当に「おもしろい」ところなのです。

ゆうせい

ありがとうございます。熱意と熱量を込めたいだけ込められるのがインディーズ映画である。だから込めてほしいというお気持ち、とてもわかります。では、これから映画を作る方へアドバイスをいただけますか?

河谷さん

『リベンジ!』を作って改めて思ったことですが、お金がないからできないは、ただの言い訳だなと。お金はなくても、時間と頭はどこまでも使えるはず。どこでカバーするか、できる方法を探すというのは、映画一本のためだけじゃなくて、この先、生きていく上ですごく大事なことだと。

廃墟から森に変えたこともそうですが、撮影場所が変わると、前後の展開にも当然ながら影響が出てきます。それらも細かく修正しなくてはいけない。そこを妥協せずにやった結果、森で良かったねとなれました。

妥協して終わるのではなく、一つ変更したら他もあきらめずに修正する。結果的に伝えたいことが伝わるようにすることが大事です。ここをおろそかにすると、物語の違和感につながります。

あと、これはもう僕独自のやり方なんですが、何かをやりたいと思ったとき、SNSで先に言っちゃうんですよね。こんなんやりますとか。こういうおもしろいこと考えてます、ご期待くださいみたいな。そうしたらもうやるしかなくなるので、やる方向に進む。

今の時代の考え方には背くかもしれないし、無理しないことも大事なんですけど、自分がどうしてもやりたいと思っていることをあきらめるくらいだったら、逃げ道をつくらずにやりきった方がいいのかなと思います。

ゆうせい

無理せずに、時にはあきらめることも必要ですが、あきらめることがストレスになるのであれば、まずは抗ってみるということですね。

河谷さん

はい。そして、もう一つ大事なことは編集です。

学生映画やインディーズ映画には、「脚本どおりに編集しないことが正義」のような文化があります。編集していると、脚本どおりに編集するよりもこっちの方がいいねとなりがちなのですが、それは自分たちが脚本を読んでいるから言えることなんです。

本来の物語に自分たちが飽きはじめてしまい、こっちの方が目新しいからと勝手な編集をしてしまう。でもそれは初めて見る人には伝わらないんです。元々がどんな話か知らないので。

ゆうせい

ついつい、みんなわかってると思い込んでしまう罠…ですね。

河谷さん

なので、まずは脚本どおりに編集することをおすすめします。無理にひねろうとせずに、アマチュアのまっすぐな気持ち、熱意熱量を見せるべきです。プロでもない人がひねってひねって作っても、見る側はどう受け取っていいのかわからなくなる。だったら熱くてまっすぐな気持ちを見たいじゃありませんか。

ゆうせい

そのとおりだと思います!(届け…!監督の思い…)
ではさいごにお聞きします。本作『リベンジ!』をどのような方に見てほしいですか?

河谷さん

探偵物が好きな人にはもちろんおすすめですが、今まであまり映画を見てこなかった、触れてこなかった方こそが楽しめる作品です。普段あまり映画を見ない人は「映画=小難しい」というイメージがあると思います。そんな方にこそ、いやいや純粋に楽しいものですよと安心して提供できる作品です。

なので、むしろなにか飲み食いしながら「こいつアホやな〜」とか言いながら見てもらえたら最高ですね。

ゆうせい

ありがとうございます!ビールをお伴に『リベンジ!』をもう一度見たいと思います。本日はお時間をいただきありがとうございました。

河谷さん

途中でトイレに立つことのないよう気をつけてください。(笑)
こちらこそありがとうございました。

©京都造形芸術大学 映画学科 2018年度卒業制作 河谷組

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