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「ビューティフル、グッバイ」人間とゾンビの逃避行

男女の逃避行を描いた作品は数あれど、人を刺した男とゾンビの女という組み合わせは過去に例を見ない。『カリフォルニア・ゾンビ逃避行』というタイトルの映画も存在するが、ノリは『ゾンビランド』寄りで、「男女の逃避行」という言葉から想起させられるものまでは宿していない。また、“ゾンビ”という一種のファンタジー要素は、扱い方一つでギャグにもなれば、サバイバルやホラーにもなり得るが、丁寧に男女の心を描写していく本作に関しては、儚くも美しい人間ドラマを成立させるための一因として機能している。

人を殺めた者が背負うことになる咎、死して尚、現世に留まり続ける死者の未練。それぞれに事情を抱えながらも共に道を歩んでいく二人の旅路は、終わることが約束された旅路であると言っても過言ではない。逃避行とはそういうもの。ただ、この作品を観ていてもう一つの可能性を垣間見た。逃避行とは、自身の気持ちを整理するために必要な時間を指す言葉であるのかもしれないと。互いに抱える弱さを分かち合い関係を築いていく中で、失われたものと今からでも手に入れられるものを自覚していく二人。死後の世界、贖罪、赦しなどの類いにまで想いを巡らせられる深度を持ち合わせたこの物語は、きっとあなたの心を少しばかり温かくしてくれると思います。骨太な長編作品を求めている方に是非オススメしたい一本です。

『ビューティフル、グッバイ』を見る

©今村瑛一

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