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「わたしはアーティスト」痛々しい程のわたしの青春

エキセントリックな物語の幕開けが、型にはまることのない女子高生の繊細で胸揺さぶられるドラマが展開されていくことを予期させるが、残念ながらそんな時間は訪れない。むしろ、大いに期待を裏切ってくれるからこそ、この作品は面白い!不器用で、イタくて、ちょっぴりおかしな女子高生・尾崎沙織の恋と青春に、そのダサさや脆さに、自分という人間を自覚していく様に、きっと多くの人が共感できてしまう。何なら爆笑だってできてしまう。

誰だって自分は特別だと、周りとは違うのだと、ズバ抜けた才能が秘められているのだと信じたい。現状に満足できていないのであれば、こんなはずではなかったと、本当の自分はもっとすごいのだと、周囲の人々や環境がいけないのだと思ってしまいがち。でも、そうではないことを、極めて凡庸な自分自身を痛感させられるタイミングが人生において訪れることを、この作品は提示する。物事に敏感でありたいのに、思っていたよりも鈍感で、絶望する程悲惨な状況に追い込まれているわけでもなく、上手くいかない対人関係においても、勇気が少し足りないだけ。物語の主人公やロックスターなどに憧れはするものの、彼ら程抱えているものも特にない。何だかんだで自分が好きだし、今ある日常の中でいくらだって幸福を見つけられる。理想よりも色濃い現実を直視せざるを得なくなっていく尾崎沙織の姿には、思い当たることがたくさんあるのではないだろうか。

理想通りにいかないのが人生だけど、それが必ずしも不幸であるとは限らない。己を知り、今ある自分を認められることにこそ価値がある。ありのままでいられることの強さや難しさを感じさせてくれる一本です。

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©藪下雷太

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