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「雨のやむとき」雨がやまない二人の心

上手くいかない家族との関係性、日々変化していく友人や異性との距離感、10代ならではの閉塞感や無力感。かつて誰もが通ってきたであろう想いの数々が、今思えば他愛もないが、当時としてはどうしようもない程までに胸締め付けられた葛藤が、この短い作品の中には詰まっている。若き俳優たちの誠実な芝居が織り成す人間ドラマは、あの頃の感覚を呼び覚ましてくれるに違いない。

それぞれにどうすることもできない家庭の問題を抱え、心に降りしきる雨が一向に止む気配のない中学1年の里佳子と航汰。誰かの支えという名の傘があればこそ、雨を凌ぎ、再び陽が差すまでの時間を耐え忍ぶこともできるが、二人にはそれがない。終始心はずぶ濡れのまま、身を隠す場所も見つからず、冷え切った心を温める術も持ち得ず、心の内を曝け出せる相手もいない。まだ幼い二人にとっては、家と学校、家族と友人との繋がりが世界の全て。そこから抜け出すことも、家族の縁を断ち切ることもできやしない。親の存在なくして生きてはいけない。そんな行き場のない二人が出会い、不器用ながらも心を通わせ、互いに互いの傘足り得る存在であることを認識するに至るまでを、とても繊細且つ丁寧に映し出す。友情と呼ぶにはまだ頼りなく、恋愛と呼ぶにはまだ早い。けれど、入口へと至った二人の間に芽生えた繋がりは、いつの日か訪れるであろう雨が止む瞬間を想起させてくれるはず。ちょっぴり切ない青春と、思春期ならではの痛みや喜びを描いた儚くも力強い作品です。

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©山口優衣

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