山岡信貴監督 特集

ようこそ、DOKUSO映画館へ。当劇場支配人のたまいと申します。

前回の記事から約半年ということで…非常に反省しております…。これからは月に1本くらいは頑張って書いていきたいと思います!(本当に文章書くの遅いんですよね…)

さて、今回は今夜7/7(火)21時から行われるPFF・オンライン映画祭での『縄文にハマる人々』の上映および、片桐仁さんと監督とのスペシャル対談が行われることを記念して、山岡信貴監督の作品を特集していきたいと思います。
山岡監督は今年1月にDOKUSO映画館がスタートするタイミングから、監督作品3作品、スタッフとして入られている2作品を預けてくれた恩人です。

『縄文にハマる人々』を観て、もっと山岡さんの作品を観たい!とか、逆にこれからご紹介する作品を観て、最新作の『縄文~』も観たいとなってくれたら嬉しい限りです!

☆PFF・オンライン映画祭の詳細はこちらから※今夜を見逃しても7/14までアーカイブ配信あるようです。

理解するのを諦めた瞬間から、楽しめるんだよ
(劇団pH-7演出家・菱田一雄)

まず最初に紹介するのが、『PICKLED PUNK(ピクルドパンク)』。1993年の作品で、山岡監督の長編デビュー作になります。
PFFアワード1993にて審査員特別賞を、そのほかベルリン国際映画祭や香港国際映画祭など数多くの海外映画祭で上映され、賛否を呼んだ問題作。

この作品を観ているときに、思い出した言葉がありました。

「理解するのを諦めた瞬間から、楽しめるんだよ。理解なんてできない、自分でもなぜかはわからないけれど圧倒され、涙する。それがアングラだ」

たまいは、学生時代にアングラ演劇の舞台役者をやっていたのですが、初めてアングラの舞台に立つ僕に演出家さんが教えてくれた言葉です。お客様に、物語すべてを伝えようと創る作品に慣れていた当時19歳の僕には、なかなか目からウロコな発言でした。

一切の説明を省き、鮮烈な映像と哲学的なモノローグによって、まるで悪夢のようにツギハギな映像が流れていく。鳴り響く電話の音、自殺志願者のお悩みを聞くラジオパーソナリティ、「ここから出たい。ここから出たい。」と叫ぶ声。理解なんて出来ない、させようともしていない。連続殺人鬼の男と、誰からも連絡のこない女の、破滅的な旅路の物語。
あなたはどこで理解するのを諦められるでしょうか?

世界で最も素晴らしく、最も美しいものは、目で見たり手で触れたりすることはできません。それは、心で感じなければならないのです。
(ヘレン・ケラー)

続いて紹介するのは、2012年製作の『遊星メガドルチェ』。
謎のアルバイトをはじめたカリンのもとに現れる、巫女や荒野のガンマンのような出で立ちの科学者など個性的なキャラクターたち。そして突如として天空に現れた地球にそっくりな遊星・メガドルチェ。
カリンにいきなり背負わされた地球の運命。それとは逆に、誰にも必要とされていかなくなるカリンの人生。

こちらの作品では、次に紹介するドキュメンタリー作品『死なない子供、荒川修作』にて取材している美術家・荒川修作氏の「天命反転住宅」が重要なシーンのロケ地として活用されていて、同様にその思想を下敷きにしているであろうセリフが頻出します。

なので、『遊星メガドルチェ』をご覧になった後に、ぜひ『死なない子供、荒川修作』を観てほしい。作品解説を聴いているかの如く、スルスルと両作品の内容が腹落ちしていく自分に軽い興奮を覚えること間違いなし!

人間にとっての時間も、犬の色と同じようなものだと思うんだ。僕は、虹を見た犬なんだ。
(スチュアート『ニューヨークの恋人』)

タイムトラベルを可能にする“時間の裂け目”を発見した天才科学者スチュアートが精神異常者扱いされた際に、色を識別できない犬の目にたとえて語る、映画『ニューヨークの恋人』の中の名ゼリフ。荒川修作氏は、まさにこの「虹を見た犬」なのかもしれない。

2010年製作の『死なない子供、荒川修作』は、世界で最初に完成した“死なないための住宅”「三鷹天命反転住宅 In Memory of Helen Keller」を中心に、荒川修作氏の思想を紐解いていくドキュメンタリー。

「人は死ねない。消えていったやつはいるけど」。
死という宿命を反転させるための場所・天命反転住宅。
“死ななくなる”とは、非常にキャッチ―な言葉ですが、荒川氏や天命反転住宅に住む人々の声に耳を傾けるうちに、それは物質的な意味の“死なない”とは違うのではと思いはじめます。
荒川氏曰く、「ヒトとモノ、ヒトとヒトの“あいだ”に生まれる、質量はないが、確かにそこにある何か」、その何かを表現しようとしたのが芸術であり建築だと。その何かは、気配や雰囲気とも呼ばれ、聴覚と視覚の重複障害者であるヘレン・ケラーも知覚していた通り、それは視覚や聴覚などによってだけ感じ取るものではなく身体の拡張(『メガドルチェ』でいう「人の体は世界の全てと繋がっている」)によって知覚しているのだと。
天命反転住宅は、細胞を模したような原色の壁、部屋中にある様々な起伏、丸い部屋、乱反射する音などによって、感覚を研ぎ澄まし、身体の拡張を促進する(らしい)。

また、様々なヒトやモノとの“あいだ”に記憶があり、脳はその“あいだ”に存在する記憶の受信機。つまり、物質的な身体をもつ“ワタシ”だけが“ワタシ”ではなく、その関係性=“あいだ”をもったすべての中に“ワタシ”はいるので、死ねないということか。なんだかデカルトの「我思う、ゆえに我あり」的なやつですね、あれ混乱してきましたよ。

荒川氏の言葉だけでなく、他の科学者や住民の声を丁寧に聴き取り、並べ替え、編集し、たった80分で、新しい視界を手に入れられる傑作ドキュメンタリー。その思想をフィクションの映像作品として昇華させた『遊星メガドルチェ』。ペアになっているようにも思えるこの2作をぜひ観てほしいです!

そして、2018年製作の『縄文にハマる人々』では、小学生も知っている縄文時代、そこに隠されたミステリーを本当にたくさんの専門家・愛好家などの言葉で解明していこうとするドキュメンタリー。今夜21時からのPFF・オンライン映画祭も要チェックです!

それでは、今日もあなたが素晴らしい映画体験をできますように!
引き続きごゆっくりDOKUSO映画館をお楽しみくださいませ。

たまい支配人

『ピクルドパンク』を見る

『遊星メガドルチェ』を見る

『死なない子供、荒川修作』を見る

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