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心の機微を感じられる映画『猿楽町で会いましょう』『逃げた女』 - ミヤザキタケルのミニシアターで会いましょう

ミヤザキタケル

日本では年間1200本以上もの映画が公開されています(2019年の実績より)が、その全ての作品を見ることはどれほどの映画好きでも金銭的かつ時間的にもまず不可能です。

本コーナーでは映画アドバイザー・ミヤザキタケルが、DOKUSO映画館が掲げる「隠れた名作を、隠れたままにしない」のコンセプトのもと、海外の小規模作品から、日本のインディーズ映画に至るまで、多種多様なジャンルから“ミニシアター”の公開作品に的を絞り、厳選した新作映画を紹介します。

『猿楽町で会いましょう』6/4公開

©2019オフィスクレッシェンド

堤幸彦、大根仁、平川雄一朗、岡田惠和、川村元気らが審査員を務める「未完成映画予告編大賞MI-CAN」においてグランプリを獲得し、3分以内の予告編から122分の長編映画として生まれ変わった児山隆監督の長編監督デビュー作。

写真家としての成功を夢見る小山田(金子大地)と、女優としての成功を夢見るユカ(石川瑠華)。ひょんなことからカメラマンと読者モデルとして出会った二人は、次第に関係を深めていくのだが、ユカにはある秘密が隠されていた…。

生きていれば、誰だって大なり小なり嘘はつく。何の支障も来すことのない些細な嘘から、人間関係が泥沼化してしまう取り返しのつかない嘘まで。

そのバリエーションは様々あるが、映し出される男女の恋愛模様や夢との向き合い方、そして、劇中において目にすることになる「嘘」を通して、日頃自分がどのように嘘をついているのか、どのように嘘をつかれているのか、それらを見つめ直す機会をこの作品は与えてくれる。

©2019オフィスクレッシェンド

できることなら嘘はつかない方が良い。いちいち言われずとも、そんなことは誰だって分かっている。しかし、時には嘘をついた方が円滑に事が運ぶことがある。目的を果たすために必要な嘘もある。そこで問題になってくるのは、ついた嘘にどこまで責任を持てるかだ。

自分で思っている以上に、ついた嘘は相手にバレてしまうものだし、墓場まで持っていく覚悟なくして、貫き通すことは難しい。上辺の付き合いでしかない相手であれば、バレたところでどうということもないだろうが、大切な人が相手となると、そうもいかないのが現実。

事あるごとに嘘を重ねていくユカの姿や、彼女の嘘によって少しずつ変化していく周囲の人間関係が、嘘に付随する責任の在り処をあなたに問うてくる。

全体を通して、女性の描き方に悪意があり過ぎる部分も否めない作品ではあるのだが、恋愛描写の繊細さや心の機微、夢を追いかける上で付き纏ってくる葛藤であったりと、魅力的に感じられる要素もふんだんにあり、一見の価値がある良作。本作で目にする「嘘」は、あなたの心にどうに映るだろうか。

『猿楽町で会いましょう』
6 月 4 日 (金)渋谷ホワイトシネクイント、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
監督:児山 隆
出演者:金子大地、石川瑠華、栁俊太郎、小西桜子、長友郁真、大窪人衛、呉城久美、岩瀬亮、前野健太
(C)2019オフィスクレッシェンド

『逃げた女』6/11公開

©2019 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED

第70回ベルリン国際映画祭において、銀熊賞(最優秀監督賞)を受賞した韓国の名匠ホン・サンス監督作。公私ともにパートナーであるキム・ミニが主演を務め、夫の出張中に3人の旧友たちを訪ねていく女性の姿を描いた人間ドラマ。

近年『パラサイト 半地下の家族』や『はちどり』などのヒットもあり、映画に思い入れのない人であっても、韓国映画の存在を強く認識する機会が増えてきたように思うのだが、あなたはホン・サンスという監督の存在をご存知だろうか。

1996年の長編デビュー以来、撮る作品すべてが世界中の名だたる映画祭に出品され、ロカルノ国際映画祭での金豹賞(グランプリ)受賞や、ベルリン国際映画祭での銀熊賞(主演女優賞)受賞など、その受賞歴は華々しく、日本未公開の最新作『INTRODUCTION』も、第71回ベルリン国際映画祭にて銀熊賞(脚本賞)を受賞。

韓国を代表する映画監督のひとりであることはもちろん、世界中の映画ファンから常に注目され続けている映画監督である。

©2019 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED

夫の出張をきっかけに、5年間の結婚生活の中ではじめて夫と離れ、旧友たちの元を訪ねる主人公・ガミ。物語を大きく揺るがすような大事件は特に起こらず、映し出されるのは日常の中での会話劇がメイン。

作品自体が77分と短く、人によっては、何が何だかよく分からぬまま終わってしまうことも起こり得るのかもしれない。だが、目にすることになる一つひとつの人間関係や、些細なやり取りの数々には、それぞれの人物における関係値や相手に対する想いの断片が見え隠れしてくることだろう。

そして、それらの構造は、日頃僕たちが築いている人間関係においても生じているもののはず。言うなれば、本作はそういった繊細な心の機微や揺らぎを堪能する作品であると言ってもいい。

劇中でも語られるように、他人と関わるのは時に面倒。しかし、生きていくためには、どうしたって他人と関わらなければならない。家族や恋人などの日常的に接する人もいれば、一定の線引きが設けられた友人や知人など、その関係性は人によって様々。

劇中において部屋の階数などが言及されるのは、敬意を払って接する人、対等な関係性にある人、格下とみなしている人など、個々によって異なる人間関係の在り方を示していたようにも感じられ、その他にも様々な捉え方をできる余地が本作には秘められている。

監督自身が多くを語らず、作品の解釈などについても言及していないため、目にするあなたの尺度次第で感じ方は如何様にも変わっていく。無論、そこに正解や不正解はないし、それこそが映画の醍醐味。ホン・サンス好きな方はもちろんのこと、まだホン・サンスに触れたことのない方にも是非トライして頂きたい一本である。

『逃げた女』
6/11(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開 監督・脚本・編集・音楽:ホン・サンス
出演:キム・ミニ、ソ・ヨンファ、ソン・ソンミ、キム・セビョク、イ・ユンミ、クォン・ヘヒョ、シン・ソクホ、ハ・ソングク
2020年/韓国/韓国語/77分/カラー/ビスタ/5.1CH
原題:도망친 여자 英題:THE WOMAN WHO RAN 字幕:根本理恵
配給:ミモザフィルムズ
© 2019 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED

気になる作品はありましたでしょうか。あなたにとっての大切な一本に、劇場へ足を運ぶための一本に、より映画が大好きになる一本に巡り会えることを祈っています。それでは、ミニシアターでお会いしましょう。

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