天才と暮らす僕の人生を変えてくれた映画『ア・フュー・グッドメン』
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天才と暮らす僕の人生を変えてくれた映画『ア・フュー・グッドメン』

たまい支配人

兄弟に「天才」がいる人生ってどう思いますか?
僕の人生は、それでした。

こんにちは、DOKUSO映画館 支配人のたまいです。なかなかパンチのある言葉ではじめてしまいましたが、今回は少しだけ身の上話を。

4つ歳の離れた兄が、他の人と違うことに気づいたのは僕が小学校3年のとき。中学生になった兄は、当時「8時だJ」で大人気だったタッキーに似ていると噂になり一躍有名人に。運動神経が良く、バスケ部のスタメンでシューティングガード。運動会では兄の写真を撮りたい人が殺到し、バレンタインデーには女子がひっきりなしに訪問してきて三桁のチョコが山積みに(このころ食べ過ぎたせいで、つい最近までチョコは匂いすらも苦手でした)。

さらに学校の成績も優秀。なにより、数学と理科の頭脳が圧倒的でした。中学の履修内容に飽きた兄は勝手に勉強を進め、いつの間にか先生でも解くことができない問題にまで挑戦するようになっていました(おかげで理科の先生に嫌われてた)。

多くの騒動を起こし、多くの教師に嫌われながら、兄が県内一の私立高校に上がった1年後、僕は同じ中学の1年生となりました。

僕は生まれつきの病気で小学校高学年まで運動制限があり、おかげさまで運動神経は壊滅的なうえ、体型も肥満気味。勉強はできない方ではなかったですが、どうしても兄と自分を比べてしまう僕は、劣等感の塊でした。

おまけに、先生たちの目が異常にキビシイ! 入学した瞬間に、「たまいの弟」というレッテルを貼られ、いきなり問題児扱い。ハードモードな中学校生活が始まったわけです。

そんな中で、唯一僕を兄と比べない人がいました。担任の高橋先生です。まだ教師2年目の先生は兄のことを知らず、僕を僕として評価してくれる人、そして僕が人生ではじめて出会った「映画をアツく語る人」だったのです。

先生がHRでする映画の話は、景色が浮かぶように情緒的でワクワクし、最後にはちゃんと学びへと帰着する素晴らしいものでした。僕はプロデューサーとなった今でも企画をプレゼンするときに「高橋先生のように話せたらなあ」と思います。

僕は、高橋先生と話したくて、認められたくて、映画を見漁るようになっていきました。そんなときに出会った映画が、『ア・フュー・グッドメン』です。

©1992 Columbia Pictures Industries, Inc. and Castle Rock Entertainment. All Rights Reserved.

1992年製作、監督は『スタンド・バイ・ミー』『最高の人生の見つけ方』などのロブ・ライナー。みんな大好きトム・クルーズ主演で、名優ジャック・ニコルソン、『ゴースト/ニューヨークの幻』のデミ・ムーア、『フットルース』のケヴィン・ベーコン、『24』のキーファー・サザーランドなど豪華メンバーによる軍法会議サスペンス。

アカデミー賞4部門、ゴールデングローブ賞5部門ノミネートと輝かしい成績なのですが、トム主演作というと『トップガン』に『レインマン』、そして『ミッション・インポッシブル』シリーズなどの影に隠れて、日本では知名度が低めな気がします。

あらすじをザックリと。

最前線である米軍キューバ基地で、落ちこぼれの海兵隊員が殺害されます。犯行を行ったのは同じ部隊の2人の隊員。彼らの弁護を行うことになるのが、トム演じるハーバード出身のエリート士官で、大学院をでてまだ1年足らずのキャフィ中尉。彼は9か月で44件の示談を成立させるも未だ法廷で争ったことはない“交渉専門”の弁護士。ろくに調べもしないで、検事と事前交渉して賢く落としどころを見つけると、さっさと趣味である野球の練習に向かってしまいます。

2人の海兵隊員は、「コードRED」と呼ばれる“立派な海兵に鍛え上げるため”の暴力的制裁の上官命令をうけ、忠実に実行しただけ。命令したのは、最前線基地の司令官を任される出世頭のジェセップ大佐(ジャック・ニコルソン)。「コードRED」を実証できれば無罪、できなければ2人の海兵隊員は終身刑です。普段のキャフィなら絶対に勝負にでないこの裁判に、ギャロウェイ少佐(デミ・ムーア)のある言葉を決め手に、彼は初めて法廷で闘うことを決意し…。

©1992 Columbia Pictures Industries, Inc. and Castle Rock Entertainment. All Rights Reserved.

法廷での息もつかせぬ言葉のラリー、センスが良すぎる名セリフの数々。また法廷モノは勧善懲悪にて描かれやすいのですが、本作は違う。大学院を出てすぐ中尉になったキャフィや本部のエリート士官たちと対照的に、いつ撃たれるかもわからない最前線のキューバ基地の面々をしっかりと描くことで一面的ではない物語になっています。さすがロブ・ライナー監督。(このキューバ基地がいかに平和と程遠いのかが、日本人には理解しきれないために日本での作品評価があまり高くないのか?とかちょっと思ったり)。

ただ、いま思うとこの作品が当時中学生の僕にぶっ刺さったのは、主人公キャフィに自分を重ねていたのかもしれません。司法長官だった父をもつキャフィは、偉大な父に憧れ、比べられて委縮し、やる気がないフリをして真面目に法廷と向き合うことから逃げていました。そんな彼を変えていったのは、「偉大な父親の息子」としてではない、「彼個人」への評価です。

©1992 Columbia Pictures Industries, Inc. and Castle Rock Entertainment. All Rights Reserved.

自分をだれかと比較せず「自分」として見てくれる人がいることの有難さと、それに応えねばならない責任。キャフィはチームメンバーのおかげで法廷と向き合えるようになり、僕は高橋先生のおかげで自分を少し認めてあげられた。少しだけ冷静に兄と向き合えるようになったことで、兄にはない武器があることにも気が付けたのです。

高橋先生と『ア・フュー・グッドメン』がなければ法学部を受験することも、そして今こうして映画に携わる仕事に就くこともなかったように思います。

初めて法廷で闘うことを決めたキャフィが、何度も見たことのある法廷を見渡し、「これが法廷ってやつか」とつぶやくシーンが好きで…。

自分を少し認められたとき、そして何かに決意をもって向き合うとき、見慣れた世界は姿を変える。

『ア・フュー・グッドメン』が、一歩踏み出すあなたの背中をひと押しする作品になったら、とても嬉しいです。

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