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『無防備』無防備な心の破壊と再生

心に深い傷を負った女性が、職場で出会った妊婦との心の交流を通して再生していくまでの姿を描いた人間ドラマ。

劇中に登場する妊婦であったり、松葉杖をついたり包帯を巻いた怪我人など、触れれば簡単に壊れてしまいそうな、見るからに“無防備”な状態にある人には、誰だって優しく接し、気遣うもの。しかし、心が傷付いていたり、ひび割れてしまっている状態の人の場合、見てくれだけでその“無防備”さまでは汲み取れない。そして、何の悪意もなく、その心の傷を抉ってしまうことが時にはある。そういった複雑で繊細な人間の心模様が、主人公・律子と妊婦である千夏のやり取りや、それぞれに抱える葛藤を通じて垣間見えてくる。

他者と関係を結んでいく上で大切なこととは何か。常に仲良く、面白おかしく、楽しい時間を共有できる間柄であることに越したことはないのだが、互いに異なる人間である以上、意見の相違や感情の衝突は避けられない。どちらかが折れることで解決する問題もあるが、絶対に譲ることのできない問題に直面した時には、その関係が破綻してしまうこともあるだろう。だが、本当に大切なのは、ぶつかってしまった時に、ぶつかってしまった後に、どういった選択をするのか。それに尽きる。互いに傷付け、傷付き、和解し、再び衝突し、複雑に絡み合っていく二人の感情が、その道理を示してくれる。とても色濃く、胸打つ作品を求める方にオススメしたい一本。

©市井昌秀

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