『PARKS パークス』──すべての“春”を夢見る者たちへ
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『PARKS パークス』──すべての“春”を夢見る者たちへ

折田侑駿

©2017本田プロモーションBAUS

「ハア〜、気持ちがいい〜」──そんな独り言を口にしながら、井の頭公園をのんびり散歩している。気温は18度。少しばかり汗ばむ陽気だ。空には雲ひとつ見当たらない、そんな昼下がり。子どもたちのはしゃぐ声と武蔵野の風にそよぐ葉擦れの音を耳にしながら、缶ビールをプシュッ……。頭上に広がる青に向けて乾杯だ。

──なんていうのは、すべてウソ! すいません。フツーに新宿の喫茶店でコレを書いています。現在の気温は7度。案内されたのは店内入口そばの席でして……換気は十分! ここ2年ほどヒートテック的な衣類とは無縁の生活を送れるほど寒さに鈍感になっていた自分でさえも、さすがに寒いです。ほんと。そのうえ、きのうの夜にちょっと飲みすぎた赤ワインがまだ体内に残っているようで少しばかり気持ちが悪く、致命的な判断ミスによって、いま目の前にあるのはよく冷えたアイスコーヒー。これから『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を観るのですが(本日が公開初日!)、お腹が痛くなってきました。春のおとずれは、まだまだ先のようです。

そんな自分のことはいいとして。なにはともあれ、いまは卒業シーズン。無事に卒業されたみなさん、間もなくされるみなさん、おめでとうございます。昨年に引き続き、この季節ならではのイベントごとも、なかなか思うように執り行われていないのではないかと思います。卒業する方々はもとより、この晴れの日を楽しみにしていた親御さん、泣いたり笑ったりして月日を重ねてこられた先生方、心中お察しいたします。

なにより「卒業」のように、分かりやすい“区切り”を持つことは大切ですよね。ぼくも何度か「卒業」というものを経験してきましたが、そのたびに新しい自分になったような気がしたものです。とはいえ、いま“ないもの”に思いを馳せるより、いまこの時間を、想像/創造的な時間に当てることのほうが有意義なのは間違いなし。それでぼくは妄想のなかで、武蔵野の風に吹かれていたわけです。

©2017本田プロモーションBAUS

井の頭公園を舞台とした大好きな映画がある。瀬田なつき監督による、その名も『PARKS パークス』(2017年)。

『PARKS パークス』あらすじ
吉祥寺で一人暮らしをする純のもとに突然、高校生のハルが現れる。ハルの父親の昔の恋人を探すうちに地元の青年トキオと知り合う。まだ何者にもなっていない3人の本当にやりたいことは何なのか?誰もが一度は経験する青春の焦燥が、見るものの心を共振させる。

いまから約4年前に公開された映画で、井の頭公園の開園100周年を記念して製作された作品です。同公園は2017年5月に100周年を迎えました。100年もの長い間、ここをおとずれる者たちを見つめてきた井の頭公園。この100年のうち、ぼくも何度も何度も足を運んだものですし、100周年を迎えて以降もかなりの回数おとずれています。金麦のロング缶とブラックニッカの小瓶を片手に。

本作で描かれているのは、井の頭公園と、ここをおとずれる若者たちの、過去、現在、そして未来。それらを結びつける「音楽」。2017年に公開された映画のマイベストな作品とあってブルーレイディスクを所有しておりますが、今回コレを書くにあたり、改めて見ることはしておりません。あえて。

本作はフィクションであるものの、確実にかつての、撮影当時の井の頭公園の姿が収められています。映画を再生すれば、いつでも、どこにいても、あの場へと連れて行ってくれる。映画を見返せば、その鑑賞当時のことをふいにいろいろと思い出す。でもまたその逆もある。なにかに触れたとき、ふいに映画のことを思い出す。

個人的にはこの映画がとくにそうです。吉祥寺の駅に降り立てば、ふと『PARKS パークス』のいくつかのシーンがよみがえってくる。“春”を目前にすると、ふと『PARKS パークス』が見たくなる。そうすると当然、缶ビール片手に公園に行きたくなる。そんなことを考えていると、公園で過ごした時間、交わした会話、誰かの笑顔まで思い出してしまうのです。

井の頭公園、人、出会い、草木の香り、肌に触れる風、まぶしい太陽、にわか雨、池の魚が散らした水、どこからか聞こえてくるだれかの歌声、映画『PARKS パークス』──これらの〈記憶〉が数珠つなぎのようにして、いまもぼくのなかで息づいているんです。

©2017本田プロモーションBAUS

いまはめずらしくお酒を飲んでおりません。頭のなかで、友人たちと飲んでいるからです。いや、それも見知った顔ばかりじゃありません。ちびっこたちがジュースを手に、ウォーキング中の老夫婦は自宅で丁寧に煎れたお茶を持って、さらには野鳥研究会の御一行や、ベンチで昼寝をしていたおじちゃん、ギターを担いだお姉さんグループまでいる。高校を卒業したばかりだという若者が鏡月に手を出そうとしているので、ここは軽く注意。

あ、それにいつの日か出会った完全なるアル中・ハヤシくんもストロングゼロを片手にやってきました! 相変わらずだな〜! すでにガンギマリじゃん! そして、ボートに乗って楽しい時間を過ごしていたはずなのに降りた途端に彼女から別れを告げられたという、この地の都市伝説を身をもって示した大学生の姿も。笑顔でカンパーーーイ!

同じ環境下にあっても、抱えている事情はみなそれぞれ。一陽来復。いつの日か、こうして祝い酒を酌み交わしたいものです。想像するだけで十分。いまは。

──あたたかな春のおとずれを夢見て。

©2017本田プロモーションBAUS

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