『哀愁しんでれら』監督:渡部亮平が初めて語る誕生秘話 【聞き手】水石亜飛夢

渡部亮平
水石亜飛夢

水石亜飛夢が、いま一番会いたい監督と対談する「トーク・ザ・シネマ」。第4回は最新作『哀愁しんでれら』が2月5日に公開となる渡部亮平監督です。土屋太鳳さん演じる主人公の元カレ役として出演した水石さんが、映画の誕生秘話と製作の裏側についてお聞きしました。

水石亜飛夢
2012年ミュージカル「テニスの王子様2nd」にて俳優デビュー。
2014年TVシリーズ「牙狼~魔戒の花~」にて準主役に抜擢される。
2017年映画「鋼の錬金術師」にてアルフォンス・エルリックの声を演じ全国的に注目される。ドラマ「あなたの番です。」ドラマ「相棒17」、映画「青夏」映画「センセイ君主」など話題作に出演。
2020年3月よりテレビ朝日系列「魔進戦隊キラメイジャー」押切時雨役/キラメイブルーにて出演中。

渡部亮平 監督
1987年8月10日生まれ、愛媛県出身。10年に第23回シナリオ作家協会大伴昌司賞佳作を受賞。同年「アザミ嬢のララバイ」(10/MBS)5話で脚本家としてデビュー。その後12年に自主制作映画『かしこい狗は、吠えずに笑う』がぴあフィルムフェスティバルに入選、エンタテインメント賞と映画ファン賞を受賞。さらに第22回TAMA NEW WAVEでもグランプリと最優秀女優賞の2冠を獲得、翌年には全国で劇場公開され、14年に第23回日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞する快挙を果たした。その後、テレビドラマ、映画の脚本を中心に活動しながら、CMやMVなどへも活躍の幅を広げている。最新作『哀愁しんでれら』はTSUTATA CREATORS’ PROGRAM FILM 2016グランプリ作品。

『哀愁しんでれら』は失恋がきっかけで生まれた!?

水石

渡部監督、本日はよろしくお願いします。いよいよ『哀愁しんでれら』が公開ですね。

渡部

こちらこそよろしくお願いします。みなさんがどんな反応をされるのかドキドキしています。

©2021 『哀愁しんでれら』製作委員会

水石

僕は土屋太鳳さん演じる"小春"の元カレ役で出演させていただきましたが、急展開からの衝撃のラスト、すごく反応が気になりますよね。本作は「運動会をやり直せ」と包丁を突きつけたモンスターペアレントのニュースがきっかけとお聞きしました。

渡部

そうですね。それも本当ですけど、実はもっと前にきっかけがありまして、失恋と言いますか…

水石

えっ!? 失恋ですか?
ちょっと聞いて良いのかわかりませんが、ぜひ教えてください。

渡部

ニュースを見て、というのも本当です。でも実は23歳くらいのときの失恋がきっかけです。当時すごく好きな女性がいて、一緒に食事をしていたときに「彼氏ができた」と言われて…。
【かしこい狗は、吠えずに笑う』(※DOKUSO映画館で配信中)のクランクイン直前だったので、失恋の痛みを引きずりながらも、逆に製作に集中することで気を紛らわせたのを覚えています。

それで、無事に「かしこい狗…」が完成して試写会に誘ったんですよね。そしたら今度は「結婚が決まった」と言われて…。え、僕が映画を撮って編集している3カ月の間に彼女は結婚を決めた? たった3カ月で? いやもちろん幸せならいいんですよ。でも3カ月では結婚相手のことを全部わからないのではないかと。それって怖くないのかなと思ったのがきっかけなんです。

水石

そんなことがあったんですね! たしかに本作も偶然の出会いからすぐに結婚して、本当に大丈夫なのか? というところから物語が展開していきますよね。

渡部

そうです。でもそれだけでは物語にならないので、ニュースやいろいろなことを含めて作品にしています。

ン・ジュノ作品を見て「できるかも」と思えた

水石

お話いただきありがとうございます。初監督された『かしこい狗は、吠えずに笑う』のお話がでましたが、渡部監督は映画を撮られるにあたって学校などで習われたのでしょうか?

渡部

習ってないですね。僕は映像の学校には行っていなくて、普通の経済学科なので何も映画については勉強したことがないです。

水石

すべて独学で得たのですか? 撮影テクニックなどの書籍とか?

渡部

それらの本も良いと思いますし、映像の学校に通うことを悪く言うつもりはもちろんありません。でも僕の中では、普段映画を見ていて、自分もこんな映画が撮りたいと思ったらそれを撮ればいいと思うんです。

水石

現場で、実地で身につけていくことの方が多いと聞きますが、それに近いでしょうか。

渡部

例えば映画監督であれば、どんなビジュアルにしたのか、どういうアングルで、レンズのサイズはいくつで、などは経験から出るものもあると思いますが、技術的なことは専門のスタッフがしてくれます。だから自分はどんなものが作りたい、撮りたいかがわかればいいはずです。それは学校では教えてもらえないことだと思ってます。

こういう映画が好きだから、自分が撮るときはこうしたいという思いと、そのために何が必要かを考えられたら撮れると思います。

水石

渡部監督が「こんな映画を撮りたい!」と思った作品にはどんなものがありますか?

渡部

ポン・ジュノ監督の作品ですね。すごく生意気と言いますか、おこがましいのですが、ポン・ジュノ監督の作品を見たときに「すごくかっこいいけど、僕にもできそう…」と自分の中にも同じ感覚があると感じたんです。

水石

すごい! ちなみにどの作品ですか?

渡部

『殺人の追憶』ですね。「かしこい狗」を撮るきっかけになった作品です。

「かしこい狗」の脚本を書いてコンクールなどに出しても形にならなくて、どうしてこの面白さが伝わらないのかと悩んでいたときに、たまたま『殺人の追憶』を見たんですよね。衝撃を受けて、なんて面白いんだと思いながらも、僕もこの感覚で作れる気がすると思って。

その根拠のない自信を持って、形にしてみて、ただの勘違いであれば諦めていたと思うんですけど、頭に描いていた作品が作れて、幸いなことに評価もしていただけたので、今でもこの感覚を信じています。

水石

そのとき感じたことは間違いなかったのですね。『哀愁しんでれら』の現場でも監督の中にあるイメージをとてもわかりやすく伝えていただき、丁寧に演出してくださったので嬉しかったです。

演の二人(田中圭、土屋太鳳)と映画の見どころ

渡部

逆に、水石さんは誰かのお芝居を見ていて、自分の持っているイメージに近いと感じることはありますか? 例えば『ジョーカー』を見て、「あ、僕もホアキン・フェニックスみたいにやれるな」みたいな。笑

水石

そんな人がいたら会いたいです。笑

水石

僕はナチュラルなお芝居が好きです。浅野忠信さんのような。でも自分に活かそうとすると、タイプが違うこともあって難しいと思っていました。そんなときプロデューサーやキャスティングの方から目標にしたらと言われたのが、本作に出演されている田中圭さんです。

渡部

田中圭さんは本当に上手ですよね。「おっさんずラブ」のようなドラマのトーンと、舞台でのトーンが全然ちがいますし、振り幅があって、使い分けられていて面白いですよね。

水石

そうなんです。ありがたいことに田中圭さんのほんわかして優しげなところが近いと言っていただけています。

田中圭さんのお話になったところで、主演である土屋太鳳さんのお話もお聞きしたいです。本作では結婚後に襲いかかるプレッシャーから徐々にモンスター化していく役どころですよね。これまでの土屋さんのイメージとはかけ離れていますが、あえてのキャスティングなのでしょうか?

渡部

そうです。あの圧倒的な"陽"をまとった方だからこそです。それが"陰"というか、暗いイメージに強い女優さんだと狂っていく様子を楽しめてしまうので、今回は絶対に土屋さんでした。

水石

たしかにこれまでとイメージが大きく違いますよね。

©2021 『哀愁しんでれら』製作委員会

渡部

土屋さんは本当にストレートに純粋な方ですから、ご本人としたら本作の役どころは「嫌だな」という思いがあったと思います。でも周りの人たちは、今の土屋太鳳に必要なのはこの役だとわかっていた気がします。だから本作によって土屋さんの印象に変化が出たらいいなと思っています。

水石

田中圭さんのファンもですが、土屋太鳳さんのファンの方は、きっとハッピーな展開を期待していますよね。びっくりすると思いますが、ラストシーンも含めてどうしてこうなってしまったのかと考えるきっかけになってほしいです。

渡部

そうですね。ワンシーンずつを見ていると階段を登っていることに気がつけないけれど、実は振り返ったら恐ろしいほど高いところまで登っていたような。最後の最後でこれはずっとつながっていたのかと思ってもらえたら嬉しいです。

『哀愁しんでれら』
2021年2月5日(金)全国公開
配給:クロックワークス
https://aishu-cinderella.com/
©2021 『哀愁しんでれら』製作委員会

©2021 『哀愁しんでれら』製作委員会 ©渡部亮平

水石亜飛夢 俳優

1996年1月1日、神奈川県生まれ。ドラマ「あなたの番です。」「相棒17」、映画『青夏』映画『センセイ君主』など話題作に出演。「魔進戦隊キラメイジャー」では押切時雨役/キラメイブルーを務めた。近作に『鋼の錬金術師 完結編』がある。

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