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添い寝屋の男『クローゼット』と、両手に銃を固定された男『ガンズ・アキンボ』

ミヤザキタケル

日本では年間1200本以上もの映画が公開されています(2019年の実績より)が、その全ての作品を見ることはどれほどの映画好きでも金銭的かつ時間的にもまず不可能です。

本コーナーでは映画アドバイザー・ミヤザキタケルが、DOKUSO映画館が掲げる「隠れた名作を、隠れたままにしない」のコンセプトのもと、海外の小規模作品から、日本のインディーズ映画に至るまで、多種多様なジャンルから“ミニシアター”の公開作品に的を絞り、厳選した新作映画を紹介します。

『クローゼット』絶賛公開中

©2020映画「クローゼット」製作委員会

「私の人生、もう詰んだ」、そう言い残し、歌舞伎町のビルから飛び降り自殺をした女性の実話などをもとに、綿密な取材を重ねて生まれた本作。事故で男性機能が不能になった男が、ひょんなことから“添い寝屋”として働いていく様を通して、誰もが抱える不安や孤独、他者との繋がりがもたらすものを映し出していく人間ドラマ。監督は進藤丈広。これまで深川栄洋監督、青山真治監督、パク・チャヌク監督作品などで助監督を務め、『ヌヌ子の聖★戦 HARAJUKU STORY』で長編映画デビューを果たした新鋭。

気付けば彼女いない歴9年に達しようとしている僕には、常々思っていることがある。それは、性的な身体の接触は必要ないから、ハグだけさせて欲しいという願望である。好みの女性でなくても構わない。むしろ、マ・ドンソクのような分厚い胸板に包まれて、思いっきり深呼吸をしてみたい。そう、安心感を得たいのだ。

もし1回5000円程度でそれが叶うのなら、喜んで払ってしまいそうな自分がいる。それ故、初めて本作の予告編を劇場で目にした際には、心惹かれるものがあった。「添い寝屋」という設定や題材に、自らが抱える願望に近しいものを感じ、心の飢えや渇きを満たしてくれる何かを目にできるのではないかと胸が高鳴った。

©2020映画「クローゼット」製作委員会

無論、僕のように「添い寝屋」と聞いて興味が湧く人もいれば、拒絶反応を示す人もいるだろう。水商売や風俗の類いと変わらないと言われればそれまでだが、どうかシャッターを下ろさずに聞いて欲しい。家族やパートナーの有無問わず、誰もがきっと温もりに飢えている。心の安らぎを求めている。話し相手や理解者を欲している。

だが、日々変化していく人間関係の中で、常にそれらの欲求を満たし続けるのは至難の業。インターネットやSNSの登場によって、他者との繋がりを日常的に感じやすい世の中になったのかもしれないが、それらに依存した繋がりはどこか危うく、諸刃の剣と言っても過言ではない。

本来であれば面と向かって話すべきことですら画面の中で済ませ、良くも悪くもネット上にて多くが完結してしまうその速度感に、人の心は時折ついて行けなくなる。時には同調圧力めいたものを感じ、かえって孤独が増す一因にだってなりかねない。何より、スマホやPCが壊れたり取り上げられでもしたのなら、たちまち不安に襲われてしまうことだろう。

だからこそ、キャバクラや風俗、ガールズバーやホストクラブ、メイドカフェや執事喫茶など、その場しのぎにしかなり得ないことを分かっていながらも、生身の肉体を、確かな温もりを求め、金を代価にその心を満たしている人もいる。その心持ちは、決して理解不能なものではないと思う。

「添い寝屋」もまたその一つ。そして、様々な事情で添い寝屋を利用する客と、客との触れ合いを通して徐々に変化していく主人公の姿から見えてくるものがきっとある。奇しくもコロナ禍によって他者の温もりに触れにくくなった今だからこそ、他者の心に歩み寄ることの難しさや大切さを噛み締める機会を与えてくれる作品になるだろう。

『クローゼット』
絶賛公開中
配給:アークフィルムズ
© 2020映画「クローゼット」製作委員会

『ガンズ・アキンボ』2/26公開

©2019 Supernix UG (haftungsbeschränkt). All rights reserved.

ネットでの誹謗中傷が災いして、両手に拳銃を固定されてしまった青年・マイルズが、殺し合いを生配信する闇サイトの参加者となり、命をかけたデスゲームに巻き込まれていく姿を描いたバイオレンスアクション。

マイルズを演じるのは、『ハリー・ポッター』シリーズでお馴染みのダニエル・ラドクリフ。監督を務めるジェイソン・レイ・ハウデンは、『アベンジャーズ』や『ホビット』シリーズなどに特殊効果として参加した経験があり、本作においてもその手腕を遺憾なく発揮している。(R15作品故の過激な描写が多いが、)気楽に観られる爽快なアクション映画を求めている方におすすめの一本と言える。

手の平から指先まで拳銃を固定されてしまう奇抜な設定であったり、ネットやドローンなどを駆使した殺し合いの生配信という現代的な設定であったり、その主演がダニエル・ラドクリフであったりと、前情報だけでも巧みにこちらの好奇心をくすぐってくれる本作。

©2019 Supernix UG (haftungsbeschränkt). All rights reserved.

俗に言う「B級映画」の類いに値すると思うのだが、あなたが抱く「B級映画」の定義とは一体どのようなものだろう。人によってはお粗末な作品に対して使う言葉でもあるだろうし、A級には到達することのできない致命的な欠点を抱えている作品を指す言葉なのかもしれない。だが、僕にとっての「B級映画」とは、一種の褒め言葉である。

扱っている題材やジャンル的に万人受けや賞レースへの参加は望めないものの、作品に宿る熱量は決してA級映画には劣らないことがある。本作もそう。表面的にはおフザケ感満載ながらも、本気でフザケ切っているからこそ見えてくるものがある。物語の根底には、現代社会に警鐘を鳴らす要素さえ込められていたように思えてならないのである。

口は災いの元ならぬ、クソリプは災いの元とでも言おうか。迂闊な発言が他人だけでなく自分をも傷付けることをマイルズを通して示し、スマホやネットなくして生きられない今の世の中において、両手が不自由になったことであらゆる呪縛から解放され、服を着たり食事をするのもままならない状況が、他人の優しさや存在価値に気が付くチャンスを与えてくれる。

スマホがあればこそ、様々な世界の扉を(良くも悪くも)開いて行ける今日ではあるが、一度全てを手放すことで目にできる景色があることを、それとなく描いているのが本作の良いところ。あくまでもおフザケをメインにしつつ、根っこには骨太なドラマを据えているB級映画の鑑のような作品と言えるだろう。

『ガンズ・アキンボ』
2021年2月26日(金)公開
配給:ポニーキャニオン
© 2019 Supernix UG (haftungsbeschränkt). All rights reserved.

気になる作品はありましたでしょうか。あなたにとっての大切な一本に、劇場へ足を運ぶための一本に、より映画が大好きになる一本に巡り会えることを祈っています。それでは、ミニシアターでお会いしましょう。

©2020映画「クローゼット」製作委員会©2019 Supernix UG (haftungsbeschränkt). All rights reserved.

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