vol.1 ピクルドパンク 共感か反感か

スタッフK

タバコの灰を落とそうと思って灰皿を見ると灰の中に髪の毛が一本混ざっているのを見つけました。持っているタバコの火種を髪の毛に近づけると、髪の毛は生き物みたいにくしゃっと丸まりました。その予測できない動きが面白くて続けているうちに髪の毛はただの小さくて黒い塊になっていました。そのあとは何事もなかったようにタバコの火を消してココアを一口飲みました。

連続殺人犯の心理というのは到底理解できるものではないけれど、『ピクルドパンク』をみたあとは無心で髪の毛を弄んでいた自分を少し疑ってしまいます。

『ピクルドパンク』はドキュメンタリー映画や実験的な作品を多く生む山岡信貴の16ミリ処女長編作品。他にも山岡信貴監督作品の『死なない子供、荒川修作』や『遊星メガドルチェ』、スタッフとして参加している『UFOの確認:未確認の愛』や『エコ』などを現在DOKUSO映画館にて上映しています。

pickled punkとはホルマリン漬けの胎児という意味のようです。本作はぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞を受賞。海外でも高く評価されたようです。ヨーロッパ公開時には、心の映画であると絶賛の一方で、モラルへの賛否両論も。

『ピクルドパンク』、ある男はすべての既成概念を消去し尽くした果てを見るために旅に出ます。恋人の女は彼を理解できずに、ひたすら後を追います。ガラスのように繊細かつ攻撃的な映像で、その破滅的な旅の行方を描いた映画です。

コリン・ウィルソンは私の好きな作家の一人で、この映画の終盤でコリン・ウィルソン「現代殺人の解剖」の一節が引用されています。幅広い分野に精通している作家なのですが、彼が殺人について書いた本をいくつか読んだことがあります。

ジョージ・バーナード・ショウは、われわれは、芸術家を、その最高の瞬間において評価し、犯罪者を、その最低の瞬間において判断すると言った。もし私たちが人間の最高の姿を描いた芸術家の言葉をうけいれるならば、バランスをとるために、人間の最低の状態も調べるべきであろう。(コリン・ウィルソン「殺人百科」)

こうしてコリン・ウィルソンは殺人百科という本を書いたようなのですが、コリン・ウィルソンの作品と同様に『ピクルドパンク』は殺人を描いた芸術であって、つまり最低を描いた最高。そして繊細でありながらパンク。出会っては別れ、別れては出会う。

うーん、頭がこんがらがってきた!

私たちが殺人事件や殺人を描いた芸術作品に興味を抱くのは、自分と殺人犯との間に共通点を多く見出すからであると同時に、殺人犯の心理が全く理解できないからでもあります。とにかく私はタバコで髪の毛を弄ぶけど、笑いながら発狂したり、世紀末を探す旅に出たりはしないぞ!と、心に決めました。

スタッフK

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