【対談】水石亜飛夢×岩切一空監督 ー 実は男の役者が苦手です

岩切一空
水石亜飛夢

水石亜飛夢が、いま一番会いたい監督と対談する「トーク・ザ・シネマ」。第2回は『花に嵐』がDOKUSO映画館で配信中の岩切一空監督。役者の話、演出の話に始まり、岩切監督が理想とする映画のお話で盛り上がりました。後半では水石さんの怒りエピソードも…。

水石亜飛夢
2012年ミュージカル「テニスの王子様2nd」にて俳優デビュー。
2014年TVシリーズ「牙狼~魔戒の花~」にて準主役に抜擢される。
2017年映画「鋼の錬金術師」にてアルフォンス・エルリックの声を演じ全国的に注目される。ドラマ「あなたの番です。」ドラマ「相棒17」、映画「青夏」映画「センセイ君主」など話題作に出演。
2020年3月よりテレビ朝日系列「魔進戦隊キラメイジャー」押切時雨役/キラメイブルーにて出演中。

岩切一空 監督
東京都世田谷区出身。早稲田大学文化構想学部に入学。大学公認映画サークル「稲門シナリオ研究会」に所属し、初めて映像制作に触れる。2012年、『ISOLATION』にて第25回早稲田映画まつりグランプリを受賞。大学卒業後、ENBUゼミナールに入学、池田千尋監督に師事する。「花に嵐」で2017年度(第58回)日本映画監督協会新人賞受賞。現在、齊藤工監督作品「COMPLY+-ANCE」(2020年)にパート監督として参加。

はちゃんと話すのが初めての二人

岩切

実はちゃんと話すのは初めてですよね?

水石

飲み会で何度かご一緒していますけど、席が遠かったりで、しっかり話すのは初めてになりますね。たしか僕が主演した『BAD TRIP』(2018年 池本ミナミ監督)が上映された「湖畔の映画祭」でお会いしたような…。

岩切

そう。だから映画の話をすることも初めて。でも僕と亜飛夢くんは年齢が5歳差でちょっと下の代になるから、僕が亜飛夢くんと映画の話をすると先輩風をふかすようで嫌だなぁと。(笑)

水石

そんなことないですよ! むしろお気づかいいただきありがとうございます。でも、たしかに時々いますよね、先輩風をふかす方が。(笑)

岩切

そうならないように気をつけますね。でも俳優同士で飲んだりしてたら、演技論の話とかにはならないですか?

水石

なる人はなると思うんですけど、僕は基本的にしないですね。みんなそれぞれメソッドがあると思っていますし、自分はこれだよってわざわざ言うのも気持ち悪いといいますか。そもそもまだまだ勉強中ですから。

岩切

演技論の話の続きになっちゃうけど、さっき話に出た『BAD TRIP』の公開から3年経って何か変わったことはありますか?

水石

当時はとにかく「役になろう、なりきろう」という思いが強くて、がんばって別人物になろうとしていました。でもそれって乱暴に言うと嘘っぽさが出てしまうというか。いまは役と言えども自分であり、自分の中にあるものしか出せないと思えるようになってきています。

督のタイプと演出について

岩切

監督によって男の子と仲良く友達みたいに接して、ワイワイしながら演出するのが好きなタイプと、逆に女の子の演出が得意で、あまりを男性を演出しない人もいますよね。僕は男性を演出するのが苦手な方です。

水石

そうなんですね!

岩切

男って、緊張するんですよ。逆に女性だと緊張しない。(笑)

水石

えっ!? それって珍しくないですか?

岩切

なんていうか、あくまでも僕のイメージなので性別は関係ないのかもしれないけど、男性の場合は「こんな芝居がしたい!」という思いが強い方が多くて…。

水石

それはありますね。ここで絶対に爪痕を残してやるぜ感が強いかもしれないです。

岩切

僕は映画のキャラクターを作っていく時に自分の分身からイメージするんですけど、男性キャラの場合は同じ性別だから自分に近いものになってしまって、分身をつくるのがしんどいんです。だから自分で演じちゃう。でも、それを誰かに担ってもらわないといけないときには、男性の役者とより向き合う必要がある。でもそこには「爪痕残すぞ」感を持っている人が多いのでむずかしい。

水石

たしかに岩切監督の作品はご自身で演じていたり、あまり男性のキャラが出てこないですよね。

岩切

一作品につき、名前のあるキャラは1人か2人くらい。しかも常に典型的なキャラで出てもらってるので、ガッツリ向き合って対話する感じで演出したことはないですね。いまどき男女の区別なんてと思うし、性差なく考えたいんですけど。それでも考えざるを得ない瞬間があるなぁと。

水石

男性と向き合うことが苦手になったきっかけはあるんですか?

岩切

中学や高校時代は帰宅部の友達と遊んでいて、先輩がいない世界で生きてきたんですよね。大学で初めて先輩ができたけど、友達みたいな接し方をする人ばかりで上下関係がほぼなくて。僕は父親が単身赴任で、家族は女性ばかりだし…。あまり男社会、縦社会と接してこなかった。ほんとは男性を撮りたい気持ちはあるんですけど、ちょっと怖いかも。

水石

そうでしたか。もし僕が監督の立場だったらすごく気を使いそうだなぁ。怖いですもん。「ウォイ!」みたいなノリで来られたら引いちゃいますよね。(笑) でもある意味で女性の演出の素晴らしさは監督の持ち味の一つではないでしょうか。

岩切

女性を可愛く撮りますよね、と言っていただくことが多いんですけど、もっと男の子をちゃんと撮りたいなと。

水石

そんな感情と言いますか、願望があるんですね。

岩切

逆に亜飛夢くんは女性監督とのお仕事で感じることはありますか? まあ性差と言うより個人差だと思いますけど、僕が男性と女性で感じているようなことってあるのかなと。

水石

女性監督は寄り添ってくれる感じがあるといいますか、演出などでも「こうして!」よりも「どうしたい?」と聞いてくださることが多いですね。男性では怖い監督や演出家とご一緒したことはないですけど、予算の大きい作品を撮られている方ほど腰が低い印象があります。

岩切

今はあまり怖い監督とかいなくなってきましたよね。芝居とか演技とかって監督からいろいろ指示されるほうがいいですか? 僕はできれば決めてほしい、役者にとりあえず演じてみてほしいタイプです。

水石

僕は「まず一回やってみて」と言ってもらえるほうがうれしいです。役者はみんな何かしら自分なりに持ってきているはずですから。それを見てもらって、そこから足したり引いたり、道を修正してくださるのがうれしいです。そんな経験を積みながら、見せたものに対して「大丈夫です」と背中を押してもらえることが自信につながっていくと思っています。

岩切

すごい!とても勉強になります!

水石

やめてください!(笑) 本当はこういうこと話すの苦手なんですよ! 「我、俳優なり」みたいな空気になるじゃないですか!(笑)

岩切

いやいや俳優じゃないですか!(笑)

画監督はもっと大ヒット映画を見るべき?

岩切

僕も含めてなんですけど、映画監督って大ヒットしている映画をあまり見ていないんです。

水石

例えばどの作品ですか?

岩切

ちょっと前だと「コード・ブルー」※とか。約92億円の興行収入を上げていて、でも僕の周りの監督は誰も見ていないんです。もちろん映画監督が忙しいってこともあるんですけど、大ヒットしている映画を見ていないのは問題ではないかと。
(※『劇場版 コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』)

水石

あっ…。言われてみると僕も見ていないですね。

岩切

でも僕の家族とか友人は見ているんです。たぶん。そこにものすごい乖離があるなと。これって映画業界人と、テレビを見る一般の方との差と言えますよね。

水石

僕の偏見ですけど、映画業界人はエンタメ映画の話をするのが照れくさいというか、もっと悪くいうとダサいと思っているのかもしれないですね。

岩切

映画をやっている人にとっては別枠と言うか、話すことがないと思っているのかもしれないですよね。でも実は話すことはあるんじゃないかと。だって92億ですよ。すごすぎるし、つまらない映画ならそこまでの数字にならないですからね。だから、ちゃんと見ないといけないなと思ってます。

水石

おっしゃる通りですね。僕もこれからは見ていきます。ちなみに岩切監督は、今後エンタメ作品を撮りたい気持ちはありますか?

岩切

理想を言わせてもらうと、ジブリのような作品を実写で撮りたいです。『千と千尋の神隠し』が大好きなんですけど、あの作品はエンタメとして完璧に成立していながら、芸術でもあるんです。

水石

ジブリを実写で! 監督の思うエンタメと芸術の違いとはなんですか?

岩切

突き詰めれば同じところにたどり着くのかなと。芸術とは死を描くもので、死者の魂を救済できるかどうかだと思っています。ジブリはあれだけの人が見る時点でエンタメであり、かつアニメ描写がアーティスティックで、エンタメ映画でありアート映画なんです。

水石

そう言われると、たしかに完成形ですね、ジブリって。

岩切

なので、ジブリのようなことを実写で…というのが僕の一番の理想です。

写には俳優がいるという強みがある

水石

岩切監督の作品で僕が感じた面白さは、人間の見せたくない、さらけ出したくない部分を描いている点だと思っています。意識して描いているのでしょうか?

岩切

アニメに無いわけではありませんが、実写においては生の俳優が演じる強みがあると思っています。実際の人間が出てくる強みが。例えば亜飛夢くんが演じるとして、肉体は絶対に亜飛夢くんであり、セリフも僕が書いたものだとしても、声は亜飛夢くんになる。

水石

自分じゃないけど、自分であるということですね。

岩切

リアルな俳優がいることが強みだし、それこそ自然、急な雨や風も含めて。コントロールできないこと、偶然の上で成り立っていることがすごく大きいんです。それをどう取り込むかが大事かなと。

水石

とてもむずかしい部分でありながらも、強い部分でもありますね。

岩切

やっぱり見ている人の安心ラインを超える危険性を含んだものが、映画として面白いと思うんですよね。だから、俳優がいて、現実世界で撮るから何が起きるかわからない中で、ただただエンタメ的なものよりも、想定外な映画が作りたい。俳優が一番そこの可能性を持っていると思います。

水石

とても嬉しいお言葉です。突然変異になりうる、監督と観客の想像を超えられる存在になりたいと思います。

岩切

監督だけじゃ思いつかないですからね。例えば、俳優自身がすごく疲れていたら、やっぱりそのシーンはキャラクターも疲れているシーンになる。そういう予想外なことを監督って求めているんじゃないかと。

水石

それは現場でも感じます。求められているなと。

岩切

悪い癖なんですけどね。もっとできるでしょみたいな。(笑) ぜんぜんOKなシーンでもあえてもう1回撮ったりとかあります。なんか欲しいんですよね。

水石

俳優もそれはわかっていますから、何かしらを出そうとしてすべったりもします。(笑) 以前ワークショップで上田慎一郎監督が、もしもう1テイクするならプラスの条件を出すと言われていいました。なので僕は自分に何かしらを足すようにしています。

岩切

例えば、同じセリフなんだけど料理をしながら話すとか?

水石

そうです。ボールを蹴りながら話すとかです。

岩切

そうすることで、会話にリアル感が出ますよね。どっちかに集中できないから、少しばらけて、それがむしろ自然になる。もちろん画としても良くなることもあるし、俳優自身も気がついていない何かが出たりもしますよね。

水石

はい。そういう演出をしていただいたときに、セリフに偏っていた気持ちが分散されて楽になったことがあります。ノイズをあえてプラスする。

岩切

そう。ノイズ欲しいですよね。芝居に。

水石

人の話って聞いてるようで聞いてないですからね。実は頭の中でラーメン食べたいとか思ってることありますし。(笑)

段めったに怒らない水石さんが怒った理由

岩切

亜飛夢くんって、怒ることあるんですか? ぜんぜん怒らないって話を聞いたことがあるんですけど。

水石

そうですね。ほぼ怒らないですね。

岩切

それはどうしてですか?

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©2017 岩切一空/SPOTED PRODUCTIONS

水石亜飛夢 俳優

1996年1月1日、神奈川県生まれ。ドラマ「あなたの番です。」「相棒17」、映画『青夏』映画『センセイ君主』など話題作に出演。「魔進戦隊キラメイジャー」では押切時雨役/キラメイブルーを務めた。近作に『鋼の錬金術師 完結編』がある。

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