青春映画…じゃない!? LGBTに向き合う映画『青空になる』のウラ話を寺本勇也監督に聞いてきた

寺本勇也さん
ゆうせい

ゆうせい

こんにちは。DOKUSO映画館のゆうせいです。

監督にウラ話を聞くシリーズの第3弾です。今回は『青空になる』の寺本勇也監督にウラ話を聞いてきました。

メジャーデビューを目指す大学生5人の青春物語に、LGBTを取り巻く課題を盛り込んだ本作。DOKUSO映画館で配信開始後、2カ月連続でTOP3に入った人気作です。

テレビやメジャー作品ではあまり取り扱われない社会課題をなぜあえて選んだのか。作品の魅力とウラ話を監督に聞いてきました。

『青空になる』あらすじ
軽音サークルに所属する5人の大学生、 早川憐、鈴村なつめ、佐野魁人、堀田癒月、ウェズリー・ワシントン。 彼らは、有名音楽プロデューサーが審査員を務めるバンドコンテストに出場することを決める。 大会で優勝し、メジャーデビューをするために日々練習に励むメンバー。 しかし、ある日をきっかけにメンバーそれぞれが胸の奥底に抱える、 様々な思いが次第に明らかになっていき、バンドは崩壊寸前に...。

今回ウラ話をお聞きした監督は 寺本勇也さん

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ぜLGBTをテーマにした映画を作ったのか

ゆうせい

寺本監督、本日はよろしくお願いします。本作『青空になる』、青春映画であることは間違いありませんが、LGBTや出自などの社会課題が盛り込まれています。なぜあえてこれらの社会課題を盛り込んだ作品を作ろと思ったのでしょうか。

寺本さん

よろしくお願いします。実は本作、内容が決定するまでに1年以上もかかっています。

ゆうせい

制作すると決めてから1年ですか…。相当悩まれましたね。

寺本さん

はい。作品づくりにおいては、誰に向けて何を伝えるのか、ということが最も重要であり、そこの検証が不十分だと観た人の心には響かないと思っています。自主映画の撮影というのは、制作費の問題や、スタッフのモチベーションなども含め、最後まで走りきれない例が少なくありません。関係者全員が劣悪な環境での仕事を強いられ、対価や報われることも少ない世界で、それでも命がけで取り組むに値するテーマとは何かを模索し続けて、ようやく脚本が完成しました。

ゆうせい

その中でもLGBTを選ばれたのはどうしてでしょうか。

寺本さん

LGBTなどのマイノリティをテーマにしたものは、メディアで取り上げづらいという現状があります。生半可に扱うと叩かれるリスクがあり、実際のところワイドショーですら避けています。でも、だからこそ認知を広める必要があるのではないかと。インディーズ映画であれば、炎上することも恐れず、スポンサーの顔色を伺うこともありません。

本当はこのテーマ、お金をかけてメジャー映画として作ってくれるのが理想ですが、やりづらい面が大きいでしょうから。ならば僕たちインディーズ映画がやりますよ!という思いからです。

ゆうせい

インディーズ映画の強みでもあり醍醐味ですね。このテーマを40分という時間に納めるにはかなりのご苦労があったのではないでしょうか?

寺本さん

実は40分という時間は先に決めていました。有名な役者が出ておらず、派手なビジュアルが少ない作品を、最後まで飽きずに、スマホの小さな画面で集中して見てもらうには40分が限界だと思ったからです。特に今回は若い人にこそ見てほしいと思っているので、見心地のよいテンポ感を大事にしました。

それでも扱っているテーマが重たい分、芝居の間を削ってしまうと嘘っぽさが出てしまうので、40分という短い尺のなかでも細かい心情など見せるべきところはしっかり時間をとって見せています。

ゆうせい

そういうことでしたか。たしかにスマホで長時間の動画を見るのは集中力が必要ですよね。中でも時間をかけたのはどんなシーンでしょうか?

寺本さん

好きだった相手が同性愛者だったということを知り、落ち込むヒロインを友人たちがなぐさめるシーンです。クランクインして最初のシーンだったこともありキャストの気合も十分で、良い意味での緊張感がありました。

最後まで見た方が「なんかあのシーン良かったよね」と印象に残る部分にしたかったので、このシーンだけは台詞回し、カメラアングル、BGM、どれも濃いめの味付けをしました。

あの場面で友人がヒロインに投げかける言葉こそ、僕らが一番伝えたかったことです。

ゆうせい

感情だけで反応していたヒロインが、友人の言葉によって正面から向き合えるようになるところですね!

寺本さん

そうです。ただ、友人がヒロインに投げかけたあの言葉が、LGBTの方が身内や知人にいる当事者に向けて、具体的な回答、ベストアンサーだとは思っていません。なぜなら僕たちが答えを見つけたり、掲げれるほど簡単なものではないからです。

だけどその中でも、考えられる限り最も相手に寄り添った答えを選んだつもりです。恐らく、ただの綺麗事、聞き慣れた当たり前の言葉に聞こえるかもしれません。でも、結局はそこなんじゃないかと。綺麗事いいじゃないですか(笑)

社会に出たら意外と忘れがちな『相手を思いやる気持ち』の “再認識” が目的のシーンですので、ぜひ注目していただきたいです。

LGBTに理解を示さない人物をあえて削った理由

ゆうせい

本作は、変わること、変えること、その先にあるものをどうするか、登場人物が悩みながらも受け入れていく様子が爽やかに描かれています。この爽やかな空気感を出すために意識したことはなんですか?

寺本さん

本作はパッと見では「これってLGBT映画なの?」となるはずです。

テーマの重さを伝えるためにはもっとシリアスにした方がよいかもしれませんが、本作はLGBT問題をまだあまり認知していない人たちが、この問題を意識する最初のとっかかりになることが狙いです。そこで道徳作品=重たいというイメージを払拭したかったので、見心地としては明るくて爽やかな青春映画のタッチで進行します。若くて可愛いキャストが揃っていたので楽しいシーンなんかは徹底的にテンション上げて演じてもらいました。

なので、普通に楽しく観ていたけど蓋を開けてみればLGBT映画だった、それでちょっと意識するきっかけになった。みたいなことでもいいのかなぁと。

ゆうせい

私も最初は青春映画として物語に入りましたので、狙い撃ちされた気持ちです。また、本作に登場する人物はみんな優しさにあふれていて、世界中がこんな人たちになればいいのにと思うほどでした。

寺本さん

ありがとうございます。(笑)
物語の構成的には、理解を示さない人、追い詰めてくる人が出てきた方が展開しやすいものですが、今回は意図的にそういったキャラクターを登場させていません。意地悪な人間がいない世界なんてありえない、と思う人もいるでしょう。

それでも『青空になる』の世界にはいない。これはある種のユートピアですが、これから築いていく未来の理想像の一つとして『あんな世界にしていきたいよね』って思ってくれるかたが1人でも増えてくれることを願って。

ゆうせい

最高ですね。意地悪な人を意図的に省く…。個人的には意地悪な人間こそこの世界から省かれるべきだと思っているので、グッときました。

寺本さん

クライマックスは文化祭でのライブシーンとなりますが、実際のライブハウスに観客役のエキストラを集めて、カメラを4台も導入したりとインディーズ映画の枠を超えた大規模な撮影となりました。この場をお借りして関係者の皆様にはお礼申し上げます。

実は最初の構想でのクライマックスは、主人公の憐(れん)と、魁人(かいと)が漫才コンビを組み、文化祭でネタを披露する内容でした。それが最終的にヒロインや友人も加わり、5人によるバンドという形になりました。そのおかげで挿入歌を作れることになり今カラオケでも歌えるんですよ!

ゆうせい

「Don't be afraid」ですね。今度チェックしてみます!
最後に、本作『青空になる』をどんな人に見てほしいですか?

寺本さん

本音を言えばもちろん全世代の方に見てほしいです。でもあえて大変おこがましいことを言わせていただくと、理想としては思春期に入る前の小学生の低学年から中学生くらいの子たちを、道徳の時間 体育館に集めて上映してほしいです。そのくらいの時期に知っておくべきことだと思っています。そして今後の人生でマイノリティな方に出会った時、この映画を思い出して、接し方の参考にしていただけたらと。

最後になりますが、今回の作品は出演者、スタッフ全て20代の若手チームで制作しました。とても厳しい予算とスケジュールの中、本格的な画作りを試みたつもりです。ここまでやれちゃうもんなの!?と思っていただける出来になっている(はず)ので、是非ひとりでも多くの方に観ていただきたいです!

ゆうせい

ありがとうございます。私たちとしても、1人でも多くの方に見ていただけるように、引き続きバックアップいたします。本日はありがとうございました!

寺本さん

こちらこそありがとうございました!
感謝!!!

©2020映画「青空になる」製作委員会

ゆうせい DOKUSOマガジン編集長

DOKUSOマガジン編集長。人生の機微を映画から学ぶ男。現実で起こりうるような手ざわりのある作品が大好き。

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