お茶の間とSFが融合した傑作『スリッパと真夏の月』のウラ話を木場明義監督に聞いてきた

木場明義さん
ゆうせい

ゆうせい

SFと聞くと、何を想像しますか? 未来? 宇宙? いいえ、今回ご紹介する『スリッパと真夏の月』はお茶の間で展開するサイエンス・フィクションです!

町の発明家の亡き父が作った「物質転移装置」を発見した昌子。姉の光子と転送実験している中、誤って光子が異世界に消えてしまう。昌子はどうにかして光子を自分たちの世界に戻そうと奮闘するが…。

というシリアスな話。かと思いきや、お茶の間ならではのほっこり感とSFが融合した傑作なのです。オフビートな笑いも含まれて、クセになること間違いなし!

そこで今回は、なぜお茶の間とSFを融合しようと思ったのか、手ざわり感たっぷりのテレポート装置はどうやって生まれたのかなど、木場監督にウラ話を聞いてきました。

後半では映画製作のアドバイスもお聞きできたので、これから映画を作ってみたい方も必見、刮目です。

今回ウラ話をお聞きした監督は 木場明義さん

1973年9月1日生まれ。東京都出身埼玉県育ち。
1997年 大正大学文学部日本語・日本文学科 卒業
1999年 映像塾 卒業
現在、自主映画を中心に映像制作を続ける。
映画制作団体イナズマ社主宰。長岡造形大学非常勤講師。

SFやファンタジーの要素を日常に注ぎ込んだようなコメディタッチの作品を得意とし、国内外の映画祭で多くの受賞、入選歴がある。

主な監督作品
  • 『サイキッカーZ』
  • 『つむぎのラジオ』
  • 『ヌンチャクソウル』
受賞歴
  • 『スリッパと真夏の月』
    福井駅前短編映画祭 フクイ夢アート賞
    長岡インディーズムービーコンペティション 準グランプリ 他
  • 『サイキッカーZ』
    四日市映画祭 グランプリ
    よなご映像フェスティバル 準グランプリ 他
  • 2017 『つむぎのラジオ』
    第9回映像グランプリ 若獅子賞
    福岡インディペンデント映画祭 優秀賞 他

茶の間 × サイエンスフィクションが生まれたきっかけ

ゆうせい

木場監督、本日はよろしくお願いいたします。さっそくですが、本作はSFとは真逆の一般家庭といいますか、おもむきのある民家で物語が展開します。お茶の間とSFを融合しようとしたきっかけをお聞かせください。

木場さん

もともとSFが好きで、ちょっと不思議なストーリーやアイデアを書き溜めていました。とある企画で雰囲気のいい一軒家で撮影する話があり、そこを見たときにアイデアと結びついたことがきっかけです。

バラエティやワイドショーなどで、町の発明家を取り上げることってありますよね。手作りなんだけど味のある発明品の数々を紹介するような。あの雰囲気を感じる映画があっても良いのでは、この家で発明していたら面白いだろうな、などと考えたのです。するとお姉ちゃんが異世界に消えてしまうシーンが浮かんで、そこから一気にパァ〜っと結びついて脚本ができました。

ゆうせい

そうだったのですね!まるでサビのメロディが浮かんで、そこから曲が生まれる作曲家のようです。(笑)

木場さん

考えるときによくすることがあって、それは「自分だったらどうするか」に当てはめてみることです。いわゆるSF映画にでてくる「物質転移装置」だと、もっと仰々しくパソコンやケーブルがそこら中にある研究室で作られていますよね。でも、居間で作ったらどうだろうかと、自分や身近なところに置き換えてみるんです。すると日常に非日常が加わり、違和感が生まれて面白くなっていきました。

ゆうせい

アナログに近いと言いますか、ハンダゴテでじわじわ作っていくイメージですね。

木場さん

そうなんです。すると意外とできそうだなと思えてくるから不思議です。すごい天才であれば、理屈とか設計図がなくても作ってしまうのではないかと。一見するとガラクタなんだけど、実はすごい装置みたいな。本作に出てくる装置も最初はお盆が二つ並んだだけでした。そこに扇風機みたいなものを取り付けるだけで、急にメカっぽくなります。それだけの理由で取り付けました。(笑)

っこりとシリアスのバランスはどう作られた?

ゆうせい

男心をくすぐる、意味はないけどかっこいい!ってやつですね。あの装置のなんともいえない手ざわり感は、本作の見どころの一つだと思っています。キャストのみなさんも、お茶の間にふさわしい「ほっこり」する演技ですが、ここはどのように演出されたのでしょうか?

木場さん

ありがとうございます。普通は異世界に飛んでしまうと焦りますよね。でも実際に行ってみたら逆にほんわかしないかなぁと。現実を受け止めきれなくてふわっとしちゃうみたいな。ここも自分ごとで考えてみると、ベタに焦らず、のほほんとしていたほうが楽しめるなと思い、あんな設定になりました。(笑)

ただし、キャラクターやセリフを崩しすぎると「ゆるさ」が目立ってしまいます。なので、異世界の住人にはシリアスな演技をしてもらいました。シリアスな中でギャップの笑いを入れる。例えば、象の着ぐるみを着ているおじさんが、シリアスな演技で大事なこと言ったり、モンスターも怖いようで大したことはしてこないような。

ゆうせい

冷静に考えると異世界に飛ばされるなんて怖すぎます。そこにほんわかを入れることで怖さとのギャップが生まれ、安心して見続けられる設定になっているんですね。

木場さん

見せ方としては、異世界で多くの人が亡くなっていることにフォーカスしてもいいわけです。でも、あえてちょっと変だぞ、くらいにしています。リアルに見せすぎると作品のテイストが変わってしまうので、オフビートな笑いを入れてホラーな感じにはしない。大変なことが起きているんだけど、なんとかなりそうな空気づくりを大事にしています。

ゆうせい

まさに監督ならではだと思います。あのオフビート感はクセになりますし、好きな人はたまらないはず。真面目にやりすぎないことが、さらに興味をひきますね。

しかし本作は、オフビートかつシュールな設定ながらも親子関係の構築、姉妹の成長物語の一面もあります。これらを盛り込む際に注意されたことはなんでしょうか?

木場さん

あえて物語の一部をカットしたことです。父親との関係、姉妹の交流を際立たせるために、母親についてほとんど触れないようにしました。長編にならないよう省いてるところもありますが、異世界と母は関係があるのか、母のために発明品を作っていたのかなど、物語の展開としてはいくつも考えられます。そのあたりの裏側などを想像しなあら見てもらえると嬉しいですね。

ゆうせい

あえて考えないのではなく、考えた上でカットしているということですね?

木場さん

そうです。もちろん考えるべきことはちゃんと考えて、それを全部盛り込まない。SF作品には説明ばかりになっているものが多く、本末転倒と言いますか、面白みを欠いてしまうんですね。なので、見ている人に疑問を抱かせない程度に、ギリギリのラインを攻めてカットしています。本作でも異世界について詳しいことは説明していませんし、発明品に関しても同じです。

SF作品をつくるなら、このバランスが本当に大切だと思います。

ンディーズ映画の魅力と、製作において大事にしたいこと

ゆうせい

映画製作における考え方のお話が出たところでお聞きします。これから自主映画やインディーズ映画を作る方へのアドバイスをいただきたいのですが、限られた予算の中で製作する上で、一番気をつけることはなんでしょうか?

木場さん

偉そうなことを言うつもりはないのですが、「意外と自分が思っている以上のことができる」と知ってほしいです。若い頃は、このストーリーや演出は予算的に無理だなと、脚本を書く段階で削ってしまうことがありました。でも、まずは自分の好きなように書いてみることをおすすめします。すると意外となんとかなるものです。何をどうしてもダメなら、そのとき初めて修正すればいいのです。

ゆうせい

自分の「いま」だけにとらわれて、勝手に限界を作らないということですね!
自分の好きなように脚本に落とし込む。心のノートにメモしました。

木場さん

あとはとにかく撮る。言い訳せずに撮ることですね。カメラとパソコン、なんならスマホでも映画は作れるので、やらない言い訳はできないです。自分が面白いと思ったら撮る。脚本を変えるのは一番最後。まずは試行錯誤して撮る。よくよく考えたら不要だと思ったらカットしてもいいですが、あきらめずに考えることが大切です。

ゆうせい

ありがとうございます。では、監督が思うインディーズ映画の魅力とはなんでしょうか?

木場さん

やはり基本的には自由で、好きに撮れることですね。制約もなく、好きにできる。予算の都合でどうしても稚拙な部分が見えてしまうことがありますが、なにより挑戦している姿勢が素敵ですよね。また、作る立場から見てもいろんな発見があります。

いろいろ経験を重ねていくと保守的なカメラワークになったりするのですが、若い人はワンカットの長回しを大胆な方法で撮影してします。私だったらピントや光など考えることが多くて躊躇してしまうのですが、そこを恐れずに撮っています。

それが結構できちゃってると言いますか、カメラがすごく動いているのに失敗してないと言いますか。自分がいかにこじんまりしていたか、思い知らされることも多いです。(笑)

ゆうせい

なんと! 経験を積むことで良い面もありますが、足りないものが見えてしまうからこそ躊躇してしまうのですね。監督のお話を聞いて、私も勢いを忘れずに精進しなければと自分を戒めます。

木場さん

また、メジャー作品だと有名人を起用したものが多いですが、インディーズ映画では知らないけど素晴らしい役者に出会えることも魅力の一つですね。

ゆうせい

では最後に、『スリッパと真夏の月』をどんな方に見てほしいですか?

木場さん

SF好きと言いたいところですが、あまりSFに興味のない方、特に女性に見てほしいです。主人公の姉妹の設定は、SFの垣根を下げる狙いもあります。恋愛要素のない映画ですが、ぜひ女性のご意見、感想をお聞きしたいです。

ゆうせい

本当に最後で恐縮ですが、木場監督の『つむぎのラジオ』も私の大好きな作品です。スリッパと真夏の月』、『サイキッカーZ』と3つの作品をDOKUSO映画館で配信していますで、インタビューをお読みいただいたみなさま、どうぞよろしくお願いします!

木場監督、本日はありがとうございました!

木場さん

こちらこそ、ありがとうございました!

©イナズマ社

ゆうせい DOKUSOマガジン編集長

DOKUSOマガジン編集長。人生の機微を映画から学ぶ男。現実で起こりうるような手ざわりのある作品が大好き。

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