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平井亜門×外山文治 ─ 平井亜門は掴めない 外山文治監督の「きとらすばい」

外山文治

外山文治監督が、これからの映画シーンで活躍する高いポテンシャルを持った「きとらすばい(きてるぞ!)」な俳優をご紹介します!

平井亜門は掴めない。堂々とたどたどしい。言葉が見つからなくても大声で喋る。貪欲でいて無欲。臆病で奔放。まるで空に浮かぶ白い雲のように形のない存在感がある。私が彼に初めて出会ったのは映画祭の開会式だった。

彼は厳かな式典に場違いな元気な挨拶をして数百人の前でスベっていた。あれれ?おかしいぞ?と首を傾げるその姿は近年の彼が演じる役柄そのもので、そこから彼は私の気になる存在になった。

「僕は元々は音楽の専門学校に通っていて、そこで今の事務所と出会いました。でも音楽は人に聴かせられるレベルになくて、担当さんに”俳優という選択もあるよ“と。あまり格好いいスタートじゃないんです」

なるほど。思ってもなかった出発点である。昨今の若い俳優はシネフィルが多く、だから彼の纏うものに異質さを感じたのかもしれない。

「当時は俳優ならできるって舐めてしまって。伸び悩みましたね。一度、事務所から離れて、でも一ヶ月後に戻って来るという。ちゃんと尻に火がついたのは五年前、二十一歳の頃です」

言葉を選ぶようにゆっくり喋るのは彼の特徴なのだろう。傍らで心配するマネージャーをよそに、私は嬉しくなる。スクリーンの中の平井亜門も器用な人間ではないからだ。

「昔は現場で大人にどう怒られずに終えるかということばかり考えていて。ビビってました。今は役を掘り下げることにもJOYを感じられる。作品の邪魔にならないようにではなく、自分が出たことで広がりを付与できたらいいなと思います」

その言葉に思い当たるものがあった。私も助監督時代、毎日怒られないことだけを考えていた。積極的に参加して波風立つくらいなら黙っていた方が得策で、撮影現場が嫌いだった。では彼はどうやってそこから脱却したのだろうか。

「僕もずっと逃げたい逃げたいで。だけどこのままではお世話になった人に対して”何にもなかった“ことになる。それがもったいなくて。そんな時に『左様なら』のオーディションがあったんですね」

同世代の俳優に囲まれた現場は新鮮であり呼吸ができる場所だったのだろう。そしてライバル達の活躍に刺激も受けたはずだ。では意識する同世代は誰かと訊くと、意外な名前が挙がった。

「池田エライザさんって凄いですよね。映画だけじゃなくバラエティも音楽も。誠実に向き合っていて、本気なのが分かる。ものをつくる人はそうあるべきだと思いますし、僕もそうでありたいな」

そうか、平井亜門は音楽への憧れを捨てたわけじゃないんだな。俳優業だけに専念することも正解ならば、好奇心に従って欲張っていくことも素敵なことだ。では彼は自分の現在地についてどう捉えているのだろうか。

「少しずつ積み上げてるような気がしますが、俳優は調子が良くても公開されるまでに時差があるし、自分へのレスポンスをすぐに求めても思うようにいかない。だから気にせず楽しんでやります。最近は自分のイメージと近い役をいただくことが増えたし」

その話を聞いていた編集長が「平井さんは現代っ子な役が多いですよね。令和の子というか。ハッキリしないけど、ハッキリしている」と納得の表情を浮かべる。そうなのだ。だから彼は雲のように掴めず、形を変えて様々な表情を見せてくれる。平井亜門の「正しい起用法」をクリエイター達が理解し始めたこれからが楽しみでならない。大きな風が吹きそうな予感がする。ひとたび風が吹くとその雲はどこまでも美しく流れていくだろう。

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

平井亜門
ひらいあもん|俳優
1995年9月28日生まれ。三重県出身。「smartモデルオーディション2017」でグランプリを受賞後、モデル・俳優として活動。「恋愛ドラマな恋がしたい3」で注目を集める。近年の映画出演作品に、『左様なら』、『アルプススタンドのはしの方』、『うみべの女の子』、『シチュエーション ラヴ』、『階段の先には踊り場がある』、『ほとぼりメルトサウンズ』、『神田川のふたり』などがある。

撮影・文 / 外山文治

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