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『ちょっと思い出しただけ』“ちょっと”思い出すくらいが丁度良い。今を紡ぐ過去との関係性

ミヤザキタケル

©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

『バイプレイヤーズ 〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』『くれなずめ』の松居大悟監督が、ロックバンド「クリープハイプ」の楽曲に触発されて書き上げたオリジナルラブストーリーを、池松壮亮と伊藤沙莉の主演で映画化。

怪我でダンサーの道を諦めた照生(池松壮亮)と、タクシードライバーの葉(伊藤沙莉)。コロナ禍前後の東京を舞台に、二人が過ごした6年の歳月を“ちょっと”思い出すある一日の物語。

©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

こんな松居作品が観られる日を、ずっと待ち望んでいた。松居監督が主宰する劇団ゴジゲンの劇団員・東迎昂史郎と15年来の友人である僕は、2008年頃からゴジゲンの舞台と、松居監督が手掛ける映画を観続けてきた。

響く作品もあれば響かない作品もあったのだが、ある段階から、こんな風に思うようになっていた。特異な設定や男子校的なノリを用いることのない、真っ向から人を描いた作品を観てみたいと。原作モノでもなく、「松居大悟」という人間そのものが色濃く、奇をてらうことなく反映された物語に触れてみたいと。そして、本作こそが、それらに該当する松居作品であったのだ。

©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

近年、『花束みたいな恋をした』『ボクたちはみんな大人になれなかった』など、かつて恋をしていた時間へと遡る登場人物たちの姿を通して、過去の恋愛の記憶がどっぷりと呼び起こされるタイプの作品が立て続けに公開された。本作にも同様の匂いを感じ取り、「またか…」と感じている人も少なからずいるだろう。

しかし、本作にはそれらの作品とは決定的に異なる部分がある。ありし日の恋、その喜びやきらめき、悲しみや痛みを強く呼び覚ますのではなく、タイトル通り、それらの時間を“ちょっと”思い出すだけに留まっている。その“ちょっと”について、深く思考を巡らせる機会を与えてくれるのである。

©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

こと恋愛に限らず、過去の様々な記憶を“ちょっと”思い出す瞬間が、日々の生活の中で僕たちには訪れる。よみがえったその記憶に浸る時間は、おそらく数秒か数分、長くても数時間。翌日にもなれば忘れ去ってしまっている場合が殆ど。

だけど、その“ちょっと”思い出す事象が生じるのには、明確な理由があるのだということを、偶然起きているわけではなく、必然的に起きているのだということを、照生と葉が過ごした歳月を目の当たりにしていく中で、きっと自覚させられる。

あくまでも“ちょっと”思い出しただけに過ぎないし、刹那的な心の揺らぎでしかないのも確かだが、瞬時に記憶が呼び起こされるということは、それだけ心に深く刻まれている出来事なわけで、そこには膨大な想いが凝縮されている。仮に、多分に溢れ出てきてしまう記憶であるのなら、それはまだ折り合いのつけられていない過去であるに違いない。

過去を悔やむわけでもなく、惜しむわけでもなく、憎むわけでもなく、慈しむわけでもなく、ただありのままに受け止め、認め、今この瞬間を生きていく。多くの人が経験していながらも、無自覚でいがちな感覚に焦点を当てたこのラブストーリーは、今ある自分を、今ある日々を、今ある繋がりを、過去から連なる“今”の大切さを、そっと噛み締めさせてくれる。“ちょっと”思い出すくらいが丁度良い。“ちょっと”思い出すくらいが心地良いのだと。

©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

『ちょっと思い出しただけ』
監督・脚本 / 松居大悟
出演 / 池松壮亮、伊藤沙莉、河合優実、尾崎世界観
公開 / 2月11日(金・祝)より全国公開
©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

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