外山文治監督×岡本玲【対談(後編)】映画『茶飲友達』の異常な盛り上がりは映画宣伝を変えられるか?

たまい支配人

“カメ止め”を産みだしたENBUゼミナールの「シネマプロジェクト」第10弾として、映画『ソワレ』で知られる外山文治さんの監督・脚本にて映画『茶飲友達』の製作が決定。「制作応援サポーター、通称“ティーフレンド”を1,000名大募集」「出演俳優総出の映画館でのポストカード配り」「クランクイン日のカウントダウン」と、まるで劇場公開寸前のような盛り上がりをみせている『茶飲友達』だが、実はまだ撮影が終わっていない。クランクインを2日後に控える今月12月11日に特別に外山監督、主演の岡本玲さんのお時間をいただき、“茶飲友達”もとい“対談喫茶”をしてきました。(※この記事は後半です。)

※前編はこちらから
外山文治監督×岡本玲【対談(前編)】「リハビリみたい」俳優の魅力をむき出しにする外山式ワークショップとは?

たまい:撮影開始前に出演俳優さんが総出でポストカードを配るとか、撮影開始日をカウントダウンするのはめちゃくちゃ珍しいと思うんですよ。もちろん今までもあったと思いますが、ここまで大規模にやっているのはおそらく初だと思います。

外山:撮影前の大規模なプロモーションは僕も今回が初めてです。コロナで一度撮影が延期になり、空いた3ヶ月をなんとかプラスにしたいと思って、いつもより頑張ってみましょうという流れになりました。でも、役者さんがポストカードを配るのは「それは役者の仕事なのか」という議論に必ずなるんです。
一人でも多くの人に映画を観てもらいたいけれど、役者のみなさんにどこまで宣伝活動を手伝っていただくのか。もちろん強制はできませんし、したいとも思いません。その中で、みなさんの活動は本当にありがたかったです。

たまい:撮影前にここまでやっているからこそ、キャスト・スタッフ同士が接する時間がものすごく長いですよね。商業はもちろん、インディーズ映画の世界でも、本読み・衣装合わせをして、次に会うときはもう本番ですというのが多い。今作は長い期間を一緒に過ごされているし、リハも重ねていますよね?

外山:まさにこれからリハですけど。

岡本:クランクイン2日前。笑

たまい:岡本さんは、普段の現場と違うと感じることはありますか?

岡本:全然違います。でも役者にとってはありがたいです。もう芝居に不安がないくらい信頼関係がありますし、普通の撮影ってあまり作品作りに関わっている実感がないんですよ。逆に疎外感の方が大きくて。今回は、ちゃんと映画製作における「俳優部」として自分たちができることをやっている責任感がありますし、「いい作品にしたいね」という声掛けは若手キャストの中では常にしているので、グループLINEがすごく稼働しています。

たまい:すごいですね!いいですね!!

岡本:もうすでに1回喧嘩っぽいのも起きました。笑

外山:まだ始まってないんだけど。笑

たまい:演劇みたいですよね、期間的に言うと。

外山:監督としても非常にありがたい。例えば今日リハーサルをやってみて、翌日やっぱりこっちだったなと思うことってあるじゃないですか。それを修正できる時間があるから、いろいろ試せたりしますよね。
このやり方が商業映画として成立するかどうかはわからないです。でも、段取りしてテストして「じゃあ監督お願いします!」って言われるんですけど、早くないか?ってずっと思っていて。今回は、じっくりワンシーン、ワンシーンに向き合わせてもらっているので楽しいですよ。こんな楽しい映画はもう作れないはず。こんな楽しい座組も最後だと思いますね。
岡本さんがワークショップに来てくれたのもすごくありがたかった。岡本さんと初めて会ったふたり芝居を観に行った前日まで、実はワークショップをやっていたんですよね。それもシェイクスピアを。

岡本:ええええええ!外山さんが?シェイクスピア?!何をやったんですか?

外山:ロミオとジュリエット。
だけど、長台詞の部分で参加していた役者が惨敗したんですよね。演出家の責任もありますが、台詞が頭に入ってないとか、長い台詞をコントロールできないとか、役者が惨敗しているのを見てちょっと高いものを求めすぎたのかなと。
でも翌日、岡本さんと中山求一郎君がふたりで膨大な量の台詞の芝居をやっていて、自分はそれで救われたんですよ。求めて良いんだよねって。これくらいの熱量と努力を役者に求めていいんだなと実感したと言いますか。

たまい:今作には中山さんも出演されていらっしゃいますね。

岡本:そうなんですよ!私と求ちゃんは、表現の世界は甘くないという話や、熱量とか脚本へのリスペクトとか、役者として持つべきプライドはどんな作品でも必要だって話をよくするんです。求ちゃんは尊敬できるくらい熱い人なので、そりゃ外山さんも選ぶだろうなって思うし、私も選んでもらえて良かったと思います。伝わったんだなって。

外山:わかりますよ、それは。違いますよね。

たまい:作品のことも聞かせてください。今作は「シニア向けのコールガール」をテーマにした話ということで、かなりぶっ飛んだ作品だなと。脚本の着想のきっかけは?

外山:『燦燦ーさんさんー』という映画で“高齢者の婚活“をテーマにしたのが7年くらい前なんですけど、そのあたりから高齢者の性のお店とかは存在したし、ちゃんとある問題だけど、世間がないものにしていると常々考えていました。韓国では『バッカスレディ』という映画が2017年に製作されて、いち早くシニアの性について語ったなという思いがあります。
別に時代を先取っていると言いたいわけではないんですけど、今作の最初の企画書を書いたのが2014年で…。

たまい:そんなに前から温めていたんですね。

外山:ただ、今回「シネマプロジェクト」の枠組みにするにあたって、やっぱりシニアだけの問題ではなくて若者の葛藤や閉塞感みたいなのも必要になるなと。
岡本さんが演じる主人公が抱えているものは家族の問題でもあったりして、「老人の性」を描くと言いつつ色んな問題が内在しています。だから、「現代」を描いている作品であるとも言えます。
それらを上手くまとめるとか、伏線を回収するとか、ハッピーエンドでみんなを気持ちよくさせるとかではなく、そのまま突き刺してみようかなと。どう消化するのかをお客さんが決めていくような、そんな話になればいいなと思っています。

たまい:ありがとうございます。
岡本さんは、シニア向けのコールガール組織を運営する若者・佐々木マナを演じますよね。相当複雑な役なんだろうなと勝手に推測しているのですが、マナを演じるうえでの想いを聞かせてもらえますか?

岡本:絶対にできないですけど、という前置きのうえで「誰も傷つけない」演技がしたいです。同じシーンを演じる人、そして作品を観ている方も含めて。マナは、誰も傷つけたくないし、自分も傷つきたくないと子だと思っています。だからこそ、そんなお芝居ができたらと考えています。

たまい:なるほど。いまのお言葉で作品に対する期待と楽しみが増えました。ありがとうございます。

たまい:それでは、クランクイン2日前ということで、撮影にかける想いをお聞かせください。

外山:楽しみですね。必死に準備をしたし、必死に役者たちと長い時間を費やしてきたので、もう1試合終わっているんですよ。そういう意味では一度経験したことの精度をあげていくだけなので、そこの不安はないです。今回はプロデューサーもやっているので、みんなが安心安全で臨む環境を作らなきゃ、というプレッシャーの方がむしろ大きく感じています。

岡本:撮影前からクラウドファンディングなどで応援してくれる方が何百人もいて、それを役者が体感していることって滅多にないと思うんですよ。いつもは作品に入るときは、競争心とか「これで売れてやるぞ」とか、作品のことじゃない部分にすごく気合が入っていたりするんですけど、今回は自分自身にはそういうものが一切なくて。本当にこの作品を、みんなに大切にしてもらえるような作品にしたいって思えています。

たまい:今作にかける想いがすごいですね。

外山:みんなすごいですよ、本当に。幸せですよね。

たまい:そんな現場、なんて幸せなんだろうって思いますね。

外山:燃え尽きた感はありますけどね。クランクイン2日前ですけど。

岡本:やっとクランクインだよ、みたいな。やっとゴールきたよ、みたいな。

外山:今作がもし失敗したら、このやり方ダメだったってことで。笑

たまい:クラウドファンディングがラストスパートかと思います。それでは最後に、すでに“ティーフレンド”になっている方、気になっているけどまだなれていない方、それぞれにメッセージをお願いいたします。

岡本:クランクイン前から応援してくれる方々がいることが、こんなに心強いんだって本当に毎日感動し、感謝しています。心待ちにしてくれている人がいるなんて、こんなに幸せなことはないって。それと同時に、毎日悪夢を見るくらい追いつめられています。

外山:追いつめられるよね。

岡本:そのみなさんの期待を良いエネルギーに変えて届けたいと思いますし、気になっている方には…デッカイことを言いたくても言えないな、まだ撮っていないから。笑
1つの目標にまっすぐに進んでいく私たちの姿に、希望を託してくださいという想いです。

外山:まず、“ティーフレンド”になっていただいた方には本当に感謝ですよね。前作のサポーターの倍くらい多いんですよ。

岡本:そうなんですか。

外山:いかに色んな人に興味をもっていただいているのか、一生懸命“輪”を広げてくれているのか、しみじみわかるというか…。手作りの映画じゃないですか「シネマプロジェクト」って。手作りの映画をこんなにみんなが心待ちにしていることが嬉しいですよね。お話自体はキツくてガツンと来るものがあるんですけど、作っている自分たちは常に笑いが絶えなくて、みんなすごく朗らかに健やかに作っているので、一緒になって楽しんでもらいたいです。
撮影を終えたら、今度はまたみなさんに新たにプレゼントできるものもあると思うんですよね。なので、是非この作品に乗ってくださいというか、応援してくださいという気持ちです。

たまい:本日はありがとうございました!

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映画『茶飲友達』は制作応援サポーター・通称“ティーフレンド”を大募集中!12月30日までなので、お急ぎください!
https://motion-gallery.net/projects/tea-friend

『茶飲友達』あらすじ
新聞の三行広告に小さく書かれた「茶飲友達、募集」の文字……その正体は高齢者専門の売春クラブだった。 65歳以上のコールガール「ティーガールズ」に殺到する沢山の事情を抱えたシニア男性たち。そしてそれを運営するのは佐々木マナ(岡本玲)を代表とする社会に居場所のない若者達である。 ある日、スーパーで半額シールのついたおにぎりを万引きしていた国枝松子(磯西真喜)と出会ったマナは彼女を組織に勧誘し、人気売春婦へと仕上げていく……。

外山文治(監督・脚本・プロデューサー)
短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映され、「モナコ国際映画祭 2011」で短編部門・最優秀作品賞をはじめ5冠を達成。長編映画監督デビュー映画『燦燦ーさんさんー』(東京テアトル)が「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2017年、芳根京子主演『わさび』、吉行和子主演『春なれや』など、製作・監督脚本・宣伝・配給を個人で行う「映画監督外山文治短編作品集」を発表し、ユーロスペースの2週間レイトショー観客動員数歴代1位を樹立。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』(東京テアトル)を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

岡本玲
1991年6月18日生まれ 和歌山県出身。女優。第 7 回雑誌『ニコラ』専属モデルオーディショングランプリを獲得し、デビュー。以後、ドラマ・映画・CM・舞台と多方面で活躍中。代表作にNHK連続テレビ小説『純と愛』『わろてんか』ドラマ『わたし旦那をシェアしてた』、映画『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでる』、『弥生、三月』、舞台『壁蝨』『熱帯樹』、『森フォレ』、『湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。』、『葉隠れ旅館物語』。2月には舞台『陰陽師 生成り姫』の上演を控える。 ---

たまい支配人 DOKUSO映画館 劇場支配人

DOKUSO映画館の劇場支配人。たまに映画プロデューサー。今年こそ、映画と読書と仕事以外の趣味をつくりたい。

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